レポート

2018/06/22

<寄稿>障がい者雇用を成長に繋げる職場環境づくり

筆者(右)とワイジェイFX(株) 人事企画部・藤井直美氏

<寄稿> NPO法人 ディーセントワーク・ラボ 理事長 中尾文香

ますます進められる障がい者雇用

今年4月から企業の法定雇用率は、2.0%から2.2%(国、地方公共団体等は2.5%)に引き上げられました。簡単に言うと、社員(常時雇用)が1000人いる会社は、22人の障がい者を雇用することが義務となりました。社員が100人を超える企業が法定雇用率を達成していないと、その事業主は、不足する障がい者1人につき月額50,000円の障害者雇用納付金を納付しなければなりません。改善がみられない場合は企業名が公表されることもあります。今後も法定雇用率は上昇していくと見られています。  私が理事長を務めるNPO法人 ディーセントワーク・ラボでは、こうした障がい者雇用に悩む企業や団体に対して、障がい者の特性を活かした職場づくり、企業が彼らの力を成長に繋げられるような環境づくりをサポートしています。ディーセント・ワーク(Decent Work)とは、ILO(国際労働機関)の21世紀の主目標であり、「働きがいのある人間らしい仕事」と訳されます。

はじめての障がい者雇用 〜ワイジェイFX株式会社〜

今回、ご紹介するのは、障がい者雇用がはじめてのワイジェイFX株式会社さんの事例です。最初に、障がい者雇用に向け、社内の雰囲気づくりからスタートしました。

◯トップの宣言

ワイジェイFX株式会社の荒川社長

今年の1月、障がい者雇用を進める上で、代表取締役社長である荒川氏が各部署のマネジャー層に向かって次のように宣言しました。当社は「おカネに働いてもらう楽しさをすべてのひとに」という経営ビジョンを掲げているので、組織の多様性を高く保ち、「すべての人を理解する」ことを行動に起こすことが必要と考えているということ。また、アイディア1つで世の中を変えられる時代に生きているからこそ、多様性から気づきを得られる機会を日常化していきたいということでした。しかし、人事の担当者でさえ、「当社にできるのだろうか?」ととても不安な様子でした。

◯障がい者が働く現場を見学!

障がい者雇用の経験がない企業でよくあるのが、この様に不安になって前に進めないというものです。この不安を解消するために、2月に荒川氏と人事担当者2名とで障がい者雇用が上手くいっている企業や福祉事業所へ見学に行くことにしました。

◯「できそうだ」という気持ちを社内で共有したい

見学を終えて、3人から真っ先に出た言葉は「障がい者は私たちと何も変わらない」ということでした。3人の障がい者に対する考えが変わった瞬間でした。人事担当の藤井氏は、まずは「知ってもらうこと」が必要と考え、その入口として社員に向けて研修を行うことになりました。

◯障がい者雇用を「自分ごと」として捉えられるか?

研修の様子。奥が人事企画部マネージャー・堀井耕策氏

当法人では、障がい者雇用を「自分ごととして捉えられるか?」を大切にして研修をしています。障がい者は人口の約7%、家族や親戚に障害のある方がいらっしゃる場合もあり、実は身近にいる可能性が高いという事実。障がい者手帳がある・ないの境界線は完全に固定されているわけではないということ、また、誰しもが出来ないところを他者に支えられながら生活をおくっていること、等を事例を交えながら話しました。さらに、障がい者雇用で身についたマネジメント力は障がいの無い人にも応用できることについても触れ、皆で考える時間も持ちました。
当日は、障がい者本人であるA氏も参加しており、本人の許可を得て、A氏の障がいについて私や本人からも解説しました。最後に「なんでも聞いてください」とA氏が話をし、それを見て、うなずく人が大勢いました。

◯それぞれの受講者の気づき

 研修後のアンケートでは、98%の人がとても満足、満足という結果で、記述回答でも「(障がい者雇用で)何かがあっても不要な誤解や心配などないと思った」、「多様性によって様々な可能性が膨らむということも経営のヒントになった」というポジティブな意見が多く見られるなど、予想以上に社員に気づきを与える機会になりました。

◯違う者が集まることで生じる「創発」

先日、荒川氏がA氏の考え方や発想の視点が面白く、いろいろなヒントになって興味深いとおっしゃっていました。障がい者雇用は始まったばかりです。ポジティブな面を理解しながらスタートできたのは、もともと組織が持っていた社員のポテンシャルなのだと思います。おそらく、今後は毎日、仕事をしていく中で問題や課題が生じることもあるでしょう。そのときに、常に経営ビジョンに戻りながら、皆で考えて進めて行くことが大切であり、私たちは、それらをサポートしていきたいと考えています。  生物の世界からスタートした「創発」という言葉は、違うものが集まり行動することで、これまでとは全く異なる何かが生じるという意味があります。きっと、ワイジェイFX株式会社さんも、多様性を受け入れる職場をつくりながら、社員がそういった体験をする瞬間があるのではないかと思っています。


●PROFILE●  中尾文香(NPO法人 ディーセントワーク・ラボ 理事長)

学生の時に、地域の障がい者当事者団体と一緒に活動する中で「働く」ことの大切さを実感したことから、障がい者の就労・雇用に関する研究を行う。博士(社会福祉学)。社会福祉士。著書に『障害者への就労支援のあり方についての研究』(風間書房)などがある。

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