レポート

2018/08/01

未来を担う若者が 学び合える社会を

川崎寺子屋食堂での書道指導の様子

突然ですが「勉強」は好きですか? 勉強の本来の意味は文字通り「勉め強いる」ものですが、望むように学べない子どもたちがいます。学びを妨げるのは「貧困」や「日本語」。そんな子どもたちの支援に取り組む2つのNPOを紹介します。子どもの貧困と空腹に立ち向かう「川崎寺子屋食堂」、外国にルーツのある子どもたちの高校進学を支援する「多文化共生センター東京」、それぞれの代表に話を聞きました。


現代の寺子屋は世代を超えた学びの場

NPO法人 川崎寺子屋食堂
理事長
竹岸 章さん

平日の夕方、川崎市多摩区にある市立施設の一室に、小学4年生から高校3年生までの子どもたちが三々五々やってくる。ここは「寺子屋食堂」。母子家庭や生活保護家庭などの子どもたちに、無償で学習指導と夕食を提供する。
「経済的に恵まれない家庭の子ども達がきちんとした学習から離れている現実を知り、何かできないかと考えていた」と語るのは、2017年6月、NPO法人川崎寺子屋食堂を設立した理事長の竹岸章さん。大手予備校を退職する数年前から準備を重ね、クラウドファンディングで寄付を募り、日本財団の助成金やボランティアの協力を得て、同年12月、無料で一般公開する2施設に寺子屋食堂の「教場」をオープンした。

 学習指導に当たるボランティアは元教員、書道の先生、大学生と多彩。遊びたい盛りの小学生から、大学受験を目指す高校生まで、一人ひとりの学びに寄り添う。
 スタートしてみると予想もしない困難もあった。「親が外国人で日本社会に慣れていないと子どもを休ませがち、日本語で話し合うことも難しい」。それでも一度関わった子どもはどこまでも追いかける。「教育はどんな現場もあきらめたら終わり。『わかった行く』というまで根比べ」と笑う竹岸さんは、学校にお弁当を持って行くことができず、昼休みは屋上にいたという男子高校生に、卒業まで米の支援を約束した。

 今後は、寺子屋食堂の運営ノウハウを、全国の子ども食堂などに広げていきたいと竹岸さんは考える。すでに東京都北区で姉妹校がオープン準備中だ。
 学校とも塾とも違う寺子屋食堂のボランティア先生は、子どもたちにとってどのような存在なのだろう。「親戚みたいな感じ」、前述の男子高校生がそう答えた。


●PROFILE●NPO法人 川崎寺子屋食堂 理事長 竹岸 章さん

1947年富山県生まれ。大手銀行勤務を経て、82年予備校の講師に。「70歳になったら社会の役に立てることをしたい」と準備を重ね、2017年NPO法人川崎寺子屋食堂を設立。現在、川崎市多摩区内に2つの教場を運営する。
WEB:http://terakoya.or.jp/

―川崎寺子屋食堂 ボランティアスタッフの皆さん

私立高校で物理を「教えて」いた滝沢さん。「ここでは『一緒に勉強しよう』というスタンスが楽しい」

教員を目指す大学生の辻本さん。「幅広い年齢の人と触れ合え、コミュニケーションの大切さを学べる」

「子どもたちがここで過ごした時間をいつか『楽しかった』と思い出してくれたら、うれしい」と関谷さん



多様性あふれる子どもの可能性を社会の力に

認定NPO法人 多文化共生センター東京
代表理事
枦木典子さん

2017年末の法務省の統計によれば、全国の在留外国人数は約256万人、都道府県別では東京都が約54万人と全国一で、その数字は年々増加している。「企業で働く外国人コミュニティがある自治体では教育支援も進んでいるが、東京都の外国人は散住しており、実態が見えにくい」と語るのは、認定NPO法人多文化共生センター東京の代表理事を務める枦木典子さん。同法人は、東京都に暮らす外国人の子どもたちの実態を調査するために2001年に設立された。調査で見えてきたことは、母国で中学校を卒業した学齢超過の子どもたちは、日本の中学校に入れないため、公的な教育データにカウントされないという事実。日本に住み、日本の高校に進学したいと思っても学ぶ場がない子どもたちのために、2005年「たぶんかフリースクール」をスタートした。

土曜日の親子日本語教室の様子

 「4月に来日した子が、ゼロベースから日本語を学び、翌1月には日本の都立高校を受験する、それは大変な努力」と枦木さん。「思春期の子どもたちが、自分の将来への不安を抱え頑張っている姿を見ると、全力で応援せずにはいられません」。
 東京に住む外国人の数は急激に増え続けている。「多様な言語や文化を持つ子どもたちが、ここを卒業後、日本の社会でどのように活躍しているのか追跡できる仕組みも作りたい」。

 情熱あるNPOも、行政も追いつけないほどのスピードで社会は変化している。「でも、子どもの成長は待ってくれません。子どもたちにとって学校につながれない1年はとても大きい」。枦木さんの言葉が胸に響いた。


●PROFILE●認定NPO法人 多文化共生センター東京 代表理事 枦木典子さん

長野県松本市出身。小学校教師を経て多文化共生センター東京の活動に参加。 2006年より7年間、「たぶんかフリースクール」で日本語や教科を担当。13年より理事、事務局スタッフ。14年専務理事、代表代行。15年4月より代表理事を務める。
WEB:http://tabunka.or.jp/

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