インタビュー

2020/08/31

子どもたちが心から安心できる“居場所”を

認定NPO法人フリースペースたまりば理事長、『川崎市子ども夢パーク』所長

西野博之さん

 新型コロナウイルスの影響により、今年は子どもたちにとって例年より短い夏休みでした。さまざまな不安やストレスの中で迎える新学期、学校に行くことが「ちょっぴりしんどいな」と感じている子はいませんか?「もしも学校に行けないとしても、大丈夫だよ!」と呼びかけるのは、川崎市にある『フリースペースえん』を運営するNPO法人フリースペースたまりばの理事長・西野博之さん。不登校の子どもたちに30年以上向き合い続けてきた西野さんの“まなざし”に迫ります。


子どもたちが教えてくれた“居場所”のあり方

 僕が不登校の子どもたちと出会ったのは30年以上前。当時、僕は塾の講師でした。時代の流れで補習塾が進学塾に変わり、自分の仕事が子どもの幸せにつながっているのか疑問を感じ始めていた。そんな中、出会ったのが、学校に行けないことで「僕、もう大人になれない」と泣いていた小1の男の子。そして不登校がきっかけで母親の無理心中に巻き込まれかけた中2の女の子。当時、学校に行くことができない子どもとその親に対する世間の目は極めて厳しかった。行き場のない数人の子どもたちと小さな“居場所”づくりを始め、1991年に最初のアパートを借りました。不登校の子どもと出会った大人の責任として何かしてあげなきゃと、最低限の教材も揃えました。ところが、子どもたちが初日にどうしたかというと、押し入れの天井裏清掃。翌日からは懐中電灯と雑巾を持ち込み、数日後にやっと「見てもいいよ」と呼ばれ天井裏をのぞくと、子どもたちがうれしそうにピースしながら「ここがあたしたちの“居場所”」って言ったんです。衝撃でしたね。みんなのために部屋を借り、“居場所”を作ってあげたつもりになっていた僕は、もうひとつの学校を用意しようとしていたんです。余計なお世話はやめよう。子どもたちがどうしたいのかをじっくり聞こう。フリースクールではなくフリースペースとして、近所の多摩川(川=リバー)にちなみ『たまりば』はスタートしました。

川崎市との協働で誰もが自分らしくいられる場所が実現

 1998年、『川崎市子どもの権利に関する条例』の制定に関わることになりました。27条に“子どもの居場所”の確保と存続が約束され、それを具現化するために2003年にオープンした施設が『川崎市子ども夢パーク』です。パーク内に『フリースペースえん』が同時に誕生し、その運営をNPO法人フリースペースたまりばが受諾しました。全国でも珍しい公設民営、しかもプレイパークに併設されたフリースペースとあって、注目度も高く、全国の自治体から視察が絶えません。
 3千坪の敷地には、ウオータースライダー、トンネル、ログハウス、かまどもあります。子どもたちが目を輝かせて遊ぶ姿を見ると、昔も今も子どもは変わらないなと思います。社会が変わり大人に余裕がなくなり、「危ないから」「責任を持てないから」と制限してしまった。木登り、穴掘り、火起こし、学校や公園で禁止されていることもここではOK。誰でも遊べるプレイパークなので毎日にぎやかです。こんな環境で不登校の子どもたちの居場所が作れるのかと不安の声もありましたが、学校に行けない子も、学校帰りの子もごちゃまぜで遊びまくっています。室内で本を読んだり、一日中ゲームをしている子もいます。誰もがありのままで認められ、安心して自分の時間を生きることができる場所です。

広いパーク内で伸び伸び遊ぶ子どもたち

コロナと共に生きる時代様々な子どもに学びと育ちの場を

 今年の春、新型コロナウイルスの影響で、国から全国の小中学校と高校、特別支援学校に休業要請が出た時、「虐待予防のためにも、絶対にここを閉めてはならない」と思いました。川崎市と協議し、緊急事態宣言下も『夢パーク』と『えん』は、感染拡大防止に気を付けながら休みなく続けてきました。人との密な関わりを避け、距離を取ることが必要とされる今、心の距離まで広がらないように、僕らにできることは何かを考えています。授業がオンライン化したことで、不登校の子が学校とつながりやすくなるケースもある。普段は会えない遠くの人とも瞬時につながり、子どもたちの世界を広げてもくれる。日本の教育制度が大きく変化するチャンスかもしれない。もしも今、学校に行くことができなくても、大丈夫!どこにいても学ぶことはできます。
 学びの選択肢は増えているのに、不登校に対する世間の目は30年前とあまり変わっていません。身近な大人は「どうして学校に行くことができないの?」と、聞かないで。本人もわからないことのほうが多いんです。ありのままを受け止めてくれる大人がいるだけで、心の半分は軽くなる。家族だけでなく、地域の子ども食堂、学習支援など、子どもに関わる大人一人ひとりが“居場所”になれるような、子どもに寄り添う“まなざし”が広がることを願っています。