インタビュー

2020/09/29

テクノロジーを使って「できない」を「できる」に

株式会社オリィ研究所 代表 ロボットコミュニケーター

吉藤オリィさん

 新型コロナウイルスの影響で、家で過ごす時間が増え、人と会う機会が減っていませんか。行きたいところに行けない、会いたい人に会えない「不便」や「不安」、「孤独」を解消するために、さまざまなテクノロジーが注目されています。そのひとつ、遠隔操作できる分身ロボット“OriHime”を知っていますか?開発者であるロボットコミュニケーター吉藤オリィさんに、“OriHime”に込めた思いと、さらなるヴィジョンを聞きました。コロナ禍の社会の変化に戸惑う人にこそ読んでほしい、未来への希望を届けます。


人に変わるものではなく人をつなぐためのロボット

 高さ23㎝の小さな白いロボット、名前は“OriHime(オリヒメ)”。首と腕の上下の動きだけで、なんとも豊かに感情を表現する。「喜怒哀楽が見えてくるように、顔は能面を参考にデザインしました」と紹介するのは、開発者の吉藤オリィさん。「“OriHime”はAI(人工知能)を搭載していません。なぜなら、動かすのは人間だから。“OriHime”は行きたいところに行けない人にとっての、もうひとつの体。“分身ロボット”なんです」。
 吉藤さんが、“分身ロボット”を開発した背景には、約20年前の不登校経験がある。幼少期から病弱だった吉藤さんは、小学校から中学にかけての3年半、ほとんど学校に通うことができなかった。一日の大半を布団の上で過ごし、天井だけを眺め続ける日々。次第に言葉が出なくなり、身体もうまく動かせない、うまく笑えない状態に陥り、体調はさらに悪化、精神的にも追い込まれた。そのときに感じた「孤独感」を、吉藤さんはこう定義する。「誰ともつながりを感じられず、誰からも必要とされず、この世界に居場所がないと思ってしまう状態だった」と。
 周囲のサポートにより中2で学校に復帰できた吉藤さんは、幼いころから得意だった「ものづくり」を追求し、多くの人を苦しめている孤独を解消するために「ないものをつくる」ことを始めた。それは、さまざまな理由で外出できない人たちのための「もうひとつの体」。病気やけがで学校に通えない子ども、ひきこもりの人、高齢者、障害者、そしてかつての自分自身が、心の底からほしいと感じていた“分身ロボット”。こうして2010年、遠隔人型分身コミュニケーションロボット“OriHime”初号が誕生した。インターネットを使ってパソコンから遠隔操作でき、内蔵カメラの映像を見ながら会話することができるロボットは、世界のメディアに取り上げられ、少しずつ知られていくようになった。吉藤さんが“OriHime”を通して出会った人たちの中には、交通事故や難病により呼吸器を装着して生活する人もいる。こうした人たちが実際に“OriHime”を使用する現場に足を運び、ユーザーの声を聞き、2016年、眼や指先しか動かせない重度肢体不自由患者のために意思伝達装置“OriHime eye”をリリース。翌年、厚生労働省の補装具費支給制度対象製品と認められた。
 「私には寝たきりの友人がたくさんいます。重度の障害があっても彼らが仲間と共に働き、やりがいを持って暮らせる未来をつくりたい」と話す吉藤さんは、遠隔で接客などの業務を可能にする全長約120cmの“OriHime-D”も生み出し、2018年から『分身ロボットカフェ』の社会実験も行う。「私がつくりたいのはロボットではなく、その人がそこにいるという価値。障害の有無に関わらず、人は誰でも年を取ればできないことが増えていく。“できない”ことをテクノロジーで“できる”に変えれば、例え寝たきりになっても孤独は消せる」と、吉藤さんは言う。

異世代の友と交流する「老若男女平等社会」へ

 「将来、年を取って体が不自由になったとき、孤独になる人とならない人、道は2つに別れます。その境目は、結婚しているかいないかでも、子どもがいるかいないかでも、お金があるかないかでもなく、異世代の友人がいるかいないか」と、吉藤さんは断言する。「私は今、32歳ですが、上の世代から学ぶこと、下の世代から学ぶこと、どちらも大切にしています。特に、デジタルの世界は“逆年功序列”、若者のほうが高スペックですよね。若者から学ぶ姿勢を持つことが、これからのダイバーシティだと思っています。といっても年長者の立場が弱小化するという意味ではありません。これからは、お互いに学び合う“老若男女平等社会”になっていくと思うのです」。
 新型コロナウイルスの影響で、日常は激変し、テレワークも急速に広がった。職場では上司が部下に、家庭では親が子どもに、最新テクノロジーの教えを請う場面も多いのではないだろうか。
 「去年と今年では、世の中が全く違うことを皆、実感していますよね。ある程度の年齢を重ねると、誰でも自分が使い慣れた方法を変えることは難しくなります。しかし、これからの時代はもっと変化が頻繁になってくるので、使い慣れたもの以外の道具を使うトレーニングはしておいたほうがいい。例えて言うなら、右利きの人が右手が使えなくなって仕方なく左手を使うのではなく、“ちょっと左手でも書いてみようかな”と思えるかどうか」。
 吉藤さんより年上世代も多いであろう東京新聞の読者にメッセージをお願いすると、こんな言葉をくれた。「自分の半分くらいの年齢の友達を作ってみてください。彼らにアドバイスをしてはだめです。先輩ってアドバイスしがちじゃないですか。これはね、とてもよくないです(笑)。ちゃんと対等な友達関係になる」。
 かつて、学校に行けなかった日々の中で、誰からも必要とされない孤独と絶望を経験した吉藤さんは、テクノロジーを駆使して、今、多くの仲間とつながっている。「テクノロジーは“できない”を“できる”に変えるための道具。人は“できる”ことが増えると、未来に希望を抱くことができますよね」。