連載コラム
2026/01/10
<寄稿>連載『ゆっくりいきましょう』
第5回:「 始まりの渦 」
この度、「第5回アジアパラ競技大会(2026/愛知・名古屋)開閉会式」の総合プロデューサーを拝命いたしました。東京大会と同様に、ステージアドバイザーとしての参画はあるかもしれないと想像していましたが、まさか「総合プロデューサー」という立場で声をかけていただくとは、このコラムを書き始めた頃にはまったく予想していませんでした。ここまで、16歳の頃からオリンピック開会式の演出を志してキャリアを築き、大病を経てパラリンピックと出会い、東京パラリンピック開会式を手がけるに至るまでを書いてきました。せっかくですから、ここからはアジアパラ競技大会の開閉会式をつくる過程で、私が何を考え、悩み、そして多くの障壁を前にチームでどう奔走していくのかを、綴っていこうと思います。

持続可能な未来のためにできること
私が、総合プロデューサーの打診を受けたのは今年9月のはじめです。本番まで1年を切ろうとしているこのタイミングで、開会式・閉会式という二式典のクリエイティブだけでなく、式典制作に関わるすべての実施体制をゼロから構築するという大役に、「いやいやいやいやいや」と、絶句を超えて何度も依頼主である中日新聞社に「正気ですか」と問い返しました。私が知る限り、日本でこの規模の式典の制作運営ノウハウを持つ会社は一社しかありません。その会社が、何十、何百という外注先や職人・専門家と何年もかけてつくりあげている式典を、私はこの10年の間、ずっと近くで見てきました。時に批判の的にもなりますが、それでも現場を必死で守り、ノウハウを構築してきたプロデューサーやディレクター陣がいるのです。そんな彼ら彼女らを抜きに、本当に日本で国際大会の式典がつくれるのだろうか。もしつくるとしたら、どんな体制で、どんなやり方なのだろうか。自問自答を重ねる日々でした。しかし、依頼主の並々ならぬ覚悟と、新聞社としての社会的使命感、そして何より、私に託そうとしているのは単に「見栄えの良い式典」をつくることではなく、より持続可能な未来につながる具体的なビジョンとプランを描くことなのだという熱意に触れ、これはもう私が引き受ける運命なのだと感じました。
今の時代にふさわしい式典とは
大会組織委員会での正式な承認を経て、いよいよ本格的に動き出します。実質の制作期間は10ヶ月。奇しくも私の就任発表と同じ日に、大会運営費が当初の見込みより大幅に膨らんだことが公表され、批判の嵐が吹き荒れました。式典を預かる立場として、正直に言えば十分な予算とはほど遠い状況です。多くの人がテレビで見慣れた、従来型の式典にはならないと思います。でも、だから無駄だとは思いません。多くの困難を乗り越えて愛知・名古屋にやってくるパラアスリートのみなさんを、「よくぞおいでくださいました(Thank you for being here!)」という気持ちでお迎えし、翌日からの競技に向けて魂を鼓舞する開会式をつくりたい。そして、選手村に代わる場として、競技を終えたパラアスリートと関係者たちが、国や文化の違いを超えた友好を育み、同じ時間と空間を共有することで、アジアの安定と世界平和の大切さを確認しあえる閉会式をつくりたいと考えています。今この時代に、アジアパラ競技大会を日本で開催する意義と価値は非常に大きい。パラリンピックではなく、アジアパラだからこそ世界に発信できるメッセージもあるはずです。これまでの慣例をただなぞるのではなく、一つ一つのアクションについて「なぜ、何のために行うのか」という本質を問い続けながら、今の時代にふさわしい式典へとアップデートするのが、この式典を預かる私たちに課された役割だと考えています。
違いを力に変えていけるチームに
演出統括という大役を引き受けてくださった森山開次さんをはじめ、これから様々な分野のスペシャリストの方々と、少数精鋭のチームをつくって進めていくことになります。業界が違えば、言語も価値観も常識も異なりますが、風通しの良い創作環境を整え、すべてのスタッフ・キャスト・関係者がそれぞれの個性と強みを発揮し、助け合い、支え合えるチームをつくりたいと思います。障害のある人との協動が初めてという方も多いでしょう。お互い日頃の「当たり前」が通用しない場面も出てくると思います。それでも、当たり前が当たり前ではない世界をポジティブに受け止め、相手も自分も大切にできるコミュニケーションを重ねながら、違いを力に変えていけるチームをめざします。東京大会では、準備期間を含めた4年間の中で、障害の有無に関係なく、本当に多くの人がチームから去っていきました。今回は、誰一人取り残すことなく、チームで支え合いながら完走する。その覚悟を、すべてのスタッフ・キャスト・関係者と共有したいと思います。また、ホストシティである愛知・名古屋のみなさんとの協動の機会をできる限りつくって、「やってよかった」「あの大会があったから、今がある」と言っていただけるようなレガシーを共に生み出していきます。そして、次世代が未来に希望を抱ける式典にしたいと思います。
次回から隔月掲載に変わります。次回の更新日は3月10日を予定しております。
栗栖良依






