レポート

2018/03/28

モノを、社会を、みんなでデザイン

デザイナー 廣田尚子さん

障害のある人が社会生活をしていく上で障壁となるものを取り除く「バリアフリー」に対し、障害の有無などにかかわらず多様な人々が利用しやすいようデザインすることを「ユニバーサルデザイン」といいます。「…という話をする前に、“多様であることは豊かである”という根っこの共有が大事」と語るのは、女子美術大学教授でデザイナーの廣田尚子さん。多様な個性を大切にするためのデザインについてお聞きしました。

 
多様であることは豊かなこと

7月発売予定のウォーキングステッキ「BONLAB」

―これまでどんなジャンルのデザインに携わっても共通しているのは、先入観をなくしゼロベースで考えるということ。問題の根っこを探し、本来どうあるべきか考えることを大切にしています。今、携わっているのは「つえ」。東京のある企業の依頼でプロジェクトが始まり、最初にチームメンバーでターゲットとなる方々に訪問インタビューを行いました。直接お聞きした声は「足は痛いけれど恥ずかしくて持ちたくない」、「つえを持つと気持ちまで落ち込んでしまいそう」、という悲しいものばかり。その中で「持つことで気持ちが上向くようなつえがあったら」とおっしゃった方がいて、「それって眼鏡じゃない?」というビジョンが生まれました。

昔、眼鏡は恥ずかしくて掛けることに抵抗があったけれど、今はおしゃれの一部として掛けますよね。つえを高齢者だけでなく誰もが持ちたくなる未来を目指そう。そのつえを持つことで「少し遠くまで行ってみよう」と思えるかもしれない。売り方も、足の痛い方に来てもらうのでなく、こちらから出向いてサロンを開こう、来てくれた人の意見を聞こう、と打ち合わせの度にどんどんアイデアが出てきました。私はそれをすくいあげてカタチに落とし込んでいくだけ。チーム全員でデザインしました。多様な人々と一緒に課題を解決するまさにインクルーシブデザイン。

日本のものづくりに携わる人は、もともと要望に応えてカスタマイズすることに長けている、知恵を絞るのは得意です。既成概念を取り払って新しく、使いやすくデザインすることで、今までそれを持たなかった人が持ちたいなと思えたら、それだけでユニバーサルですよね。教科書的に「ユニバーサルデザイン」と言うと少し強すぎる気がしていて、物だけで完全解決を目指すのではなく、売り方も含めた解決があっていいと思うんです。 「多様であることは豊かである」という、根っこのところさえ共有できていれば、個性を尊重し合うためにどうすればいいかという話し合いができます。モノ、売り方、サービス、それぞれが得意分野のアイデアを出し合っていく。その中でデザインは、人と人をつなぐことが役割なんです。

●PROFILE ヒロタデザインスタジオ代表、女子美術大学教授、多摩美術大学客員教授。東京生まれ、東京芸術大学卒業。ビジネスデザインを立脚点にして製品開発をトータルディレクションする。グッドデザイン賞審査委員、東京ビジネスデザインアワード審査委員長。2015年グッドデザイン賞他、国内外の受賞多数。

デザインもまた多様化する
株式会社アサツー ディ・ケイ
アートディレクター 大橋謙譲さん

公共施設のサインや取扱説明書のように、届けたいメッセージが瞬時に伝わってほしい時は、ユニバーサルデザイン(以下UD)であることが求められます。ただ、私が普段携わっている広告のデザインは、伝わり切らない方がいい時もあります。異質であることが、電車や街なかで目立つこともあるためです。  インフラ的なモノはUDであるべきですが、ポスターやプロダクトのデザインは「機能性0・美しさ100」といったモノがあってもいいと思います。直接的な機能に結びつかないところも含めて、デザインのおもしろさなので。そういった意味で、昔よりデザインの幅は広がっているように思います。  UDのヒントはきっと様々なところにあります。障害をもつ方に、既存製品の使いにくい点をヒアリングすることでわかることもありますし、逆に、伝統工芸品でもスマートフォンでも、今支持されているモノを観察することで学べることもあるかもしれません。自分だけの視点ではなく、いろんな視点でデザインを捉えることが、UDにおいて大事なことなのかなと思います。

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