レポート

2024/05/22

<寄稿>第7回「障害のある子の就労の話」/「発達障害について学ぼう!」全10回シリーズ

中部学院大学非常勤講師

山内康彦

【障害者就労の現実は甘くない!早期からの取り組みが大切です。】

 3歳児検診に行った保護者が、保健センターの保健師さんから「障害者手帳を取得すれば、将来、障害者就労ができますよ。」とか、子どもたちが通う学校の先生から「障害者手帳を取得して特別支援学校に行った方が、確実に就労できますよ。」と言われたという話をよく耳にします。しかし、文部科学省の「卒業者の進路状況(20183月)卒業者」を見ると、全国の特別支援学校高等部を卒業した後に就労できているのは、約3割。卒業者の6割は生活介護等の社会福祉施設です。しかも、たとえ就労ができたとしても工賃が1ヶ月数万円のB型作業所がほとんどという状況です。皆さん。これで将来、お子さんが自立して生きていけると思いますか?私は、年間150回を超える講演会・研修会の講師を行っていますが、ほとんどの保護者や指導者は、「1ヶ月に10万円ぐらいは給料が欲しい。」と言われます。なぜか、障害があるお子さんは、20歳を過ぎると“障害年金”がもらえます。障害の重さによって年金額に違いはありますが、安くても月あたり6万円~7万円程度受け取ることができます。10万円の給料に、67万円の障害者年金。合わせて1617万円あれば、なんとか自立した生活が見えてきます。しかし、一般の特別支援学校高等部を卒業して10万円以上の給料がもらえるのは、全体の5%程度となっています。障害者手帳を取得して、特別支援学校高等部を卒業して就労が出来て、自立して生きていける十分な給料をもらえることができれば、問題はない。しかし、現実はとても厳しいのです。

【障害者の就労の種類(B型・A型・一般就労)】

 障害者就労というとまずは、『B型作業所』が一般的です。B型作業所とは、簡単に言うと“障害者のパート・アルバイト”で、雇用契約を結ばない就労となります。ですから、社会保険の加入不可。年次有給休暇もありません。給料については、最低賃金を守らなくて良いので、賃金ではなく“工賃”と言います。多くのB型作業所は、最低賃金より低いところがほとんどです。しかし、だからといって、しっかりと作業ができないと雇ってもらうことは不可能で、最低2時間程度は集中して作業できることが条件となります。働いた時間だけ給料がもらえるので、頑張れば月に5万円から10万円近くもらう人もいるようですが、全国の工賃平均は1ヶ月で15,776円。平均工賃時間額は、222円(※平成2年度)といわれています。仕事がなくなれば簡単に解雇されるデメリットもあります。

 次にご紹介するのは、『A型作業所』です。B型との違いは、雇用契約を結んだ上で働く(一般就労に近い)ことで、→1日の実労時間は4~8時間程度必要になり、基本週5日勤務となります。B型以上に一定の時間毎日仕事ができる力が必要になります。基本的に会社が存続する限り継続できて、65歳まで雇ってくれる事業所が多くあります。給料も大幅に高くなり、全国の平均賃金は1ヶ月で79,625円。平均工賃時間額899円(※平成2年度)となっています。

 最後にご紹介するのが『一般就労(障害者枠)』です。障害者雇用促進法によって義務づけされており、昨年度3月までは、企業に対して2.3%以上。国及び地方公共団体2.6%以上。都道府県等の教育委員会2.5%以上と昨年度までは決まっていました。しかし、法定雇用率が現行の2.3%から、今年4月以降は制度の見直しが行われて、2.5%に引き上げられることになりました。。今後4年かけて更に2.7%へ上昇していく予定にもなっています。これからもこの割合は上がっていくものと考えます。企業に対しては、この割合を守らないとペナルティーもあるのですが、実際に障害者就労を行っている企業は半数程度です。そこで、国は“特例子会社”という制度をつくり、障害者の一般就労を促進しようと取り組んでいます。特例子会社とは、「障害者の雇用促進と安定のため、雇用にあたって特別な配慮をする子会社のことで、認定を受ければ親会社及びグループ会社全体の障害者雇用分として実雇用率を算定することができる。」となっており、例として、自動車会社がその中にクリーニング会社をつくったり、保険会社がお菓子工場をつくったりするケース等があります。障害者雇用義務の割合が高くなり、ペナルティーの金額も上がると、企業としては今後どんどん特例子会社を増やしていこうとすると考えられます。ですから、今のうちから3時半に学校が終わって家でのんびりゲームやユーチューブではなく、放課後等デイサービスなども活用しながら、8時半から17時半まで外で過ごす生活リズムをつくっていくことは、とても重要になってくると考えます。

【就労移行支援事業と就労定着支援事業】

 最後に、就労移行支援事業と就労定着支援事業についてお話しします。“就労移行支援事業”とは、障害者総合支援法を根拠とする障害者への職業訓練制度であり、一般就労等を希望し、知識・能力の向上、実習、職場探し等を通じ、適正にあった職場への就労等が見込まれる65歳未満の者を対象とした支援事業のことです。18歳になった時に就労場所が決まらなかったり、一度就職した就労場所をやめてしまったりしても諦めてはいけません。就労移行支援事業を使って本人に合った就労場所を新たに見つけることができるのです。また、加えて新たに“就労定着支援事業”が2018年に新たに創設されました。これも、障害者総合支援法を根拠とする障害者福祉サービスの一つです。障害者が企業に勤める際の課題を把握し、企業などが課題解決に必要な支援(企業と家庭との連絡調整等)を行う事業です。具体的には、障害のある本人と一緒にそのサポートをする『ジョブコーチ』の活用ができます。

 このように、障害者就労には様々なものがあり、現在は、国をあげて障害者の自立について取り組んでいます。これからも進化は続くので、新しい情報に対してアンテナを高くしておく必要があると考えています。

山内康彦

中部学院大学非常勤講師
学校心理士SV・ガイダンスカウンセラー
(一般社団法人)障がい児成長支援協会 代表理事・元日本教育保健学会理事

山内康彦

1968年3月30日生まれ 岐阜県
 専門は特別支援教育と体育。岐阜県の教員を20年務めた後、坂祝町教育委員会で教育課長補佐となり、就学指導委員会や放課後子ども教室等を担当。その後、岐阜大学大学院教育学研究科(教職大学院)で学び、小中高・特別支援学校の専門職修士となる。その後、学校心理士やガイダンスカウンセラーの資格も取得。私立小学校の勤務を経て、現在は(一般社団法人)障がい児成長支援協会の代表理事を勤めながら、学会発表や全国での講演会活動、教職員等への研修講師を積極的に行っている。現場目線で、具体的な解決策を提案する講演会は各地で好評を得ている。2020年3月には、岐阜大学大学院地域科学研究科を修了。本年度、学校心理士スーパーバイザー(SV)資格取得。著書には「特別支援教育って何?(WAVE出版)」「体育指導用教科書(学研)」「特別支援が必要な子の進路の話?(WAVE出版)」等多数あり。

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