レポート

2018/10/05

誰もが安心して外出し トイレに行ける社会へ

NPO法人日本トイレ研究所 代表理事の加藤 篤さん

 皆さんは毎日の通勤ルートや職場に、安心して利用できるトイレはありますか。そのトイレは、車いすの人や、オストメイト(人工肛門・膀胱を保有する人)の人にとっても、安心して利用できるトイレでしょうか。「トイレを見ると、その街の良いところも課題も見えてくる」と話すのは、NPO法人日本トイレ研究所の代表理事、加藤篤さん。誰にとっても身近で切実なテーマであるトイレを通して、よりよい社会について考えてみましょう。


トイレには人の営みが凝縮されている

くわしい災害用トイレガイドはこちら
監修/NPO法人 日本トイレ研究所

トイレ改善活動をスタートしたのは1985年。日本ではまだまだタブー視されていたトイレの問題を、ユーモアをもって取り上げようと発足しました。もともとは公衆トイレの環境改善がきっかけでしたが、それだけが目的ではなく、トイレを通して社会をよい方向へ変えていくことをコンセプトに活動しています。山のトイレを通して山岳環境のあり方を考え、学校のトイレを通して子どもたちの生活環境を見つめ、1995年の阪神淡路大震災以降は、災害時のトイレを通して被災者の健康にも向き合ってきましたトイレの研究は、医療、建築設備、教育、汚水・し尿処理など、多分野の連携なしには成り立ちません。トイレには人の営みが凝縮されています。
 トイレを見れば、家庭や学校や自治体の課題も見えてくる。学校でいじめがあったりクラスが落ち着かないと、トイレも壊されたり、汚れたりと、荒れてきます。でもそれを見ることができる大切な場所。つまり、トイレは社会のバロメーターなんです。

トイレを通して問題意識をアップデート

ピンバッヂ(500円)
売り上げの一部は、トイレの清掃・装飾をする「トイレカーペンターズ」の活動費にあてられる。
お問合せは日本トイレ研究所03-6809-1308(平日10~17時)

 トイレ環境をよくすることで、学校や避難所などの居心地がよくなります。誰かが手をかけて掃除をすれば、みんなが気持ちよく使える。トイレに自分の意見や思いが反映されていると、人は安心できます。「自分は社会から無視されていない」と感じることができるのです。
例えば、赤ちゃん用のオムツ交換台では小さすぎて、床にシートを敷いてオムツを替える障害児がいることを知っていますか。盲導犬を連れた視覚障害者の人はトイレを利用するとき床が濡れていないか手でチェックするそうです。大切なパートナーである盲導犬が床に伏せをして待つからです。このように、知らないことを知ろうとすること、想像すること、意識をアップデートすることが必要です。
 また2020年に向けて我々が取り組んでいきたいのは、車いす利用者、視覚障害者など、多様な人たちそれぞれの「おすすめトイレ情報」の共有です。SNSを介してみんなで情報をつないでいけば、これまで外出をためらっていた人の行動範囲が広がりますよね。2020年をゴールとは考えていません。世界中からやってくる多様な人たちを巻き込んで、アクセルをさらに踏み込みたい。車いす利用者が「ここのトイレがよかったよ!」と発信することで、車いすで街に出ようと思う人は増えるはずです。日本のテクノロジーがあれば、誰もがトイレの不安なしに、いつでもどこにでも外出できる社会をきっと実現できる。そう信じて我々は活動を続けています。


●PROFILE● NPO法人日本トイレ研究所 代表理事  加藤 篤さん

1972年愛知県生まれ。まちづくりのシンクタンクを経て、2009年NPO法人日本トイレ研究所代表理事就任。災害時のトイレ調査や防災トイレワークショップの実施、小学校のトイレ空間改善、トイレ美術館など多分野にわたり取り組みを展開。『うんちさま(絵本)』(金の星社)ほか著書多数。

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