レポート

2019/06/01

子どもたち一人ひとりの 発達を支援する取り組み

同じ志を持つ人が集まった少数精鋭のLeapには、ダウン症療育の知識と経験を持つスタッフもいる

 児童発達支援とは、2012年の児童福祉法改正により始まった制度です。支援の対象となるのは、心身の成長や発達に心配のある子ども。国や自治体からの支援により約1割の自己負担で、地域にある児童発達支援施設の通所サービスを受けることができます。「自分が子どものころに、こういう場所があったら」と話すのは、東京都国立市の発達支援教室Leap代表理事の原秀樹さん。2017年5月にこの施設を立ち上げた思いを聞きました。


どの子も自分の子ども時代に重なる

原 秀樹さん

 国立市内の住宅街、通学路に面したビルの1階に一般社団法人Leapが運営する発達支援教室がある。この日は4人の子どもが約45分の「グループ療育」に参加した。
 「療育」とは、発達に不安や問題のある子どもが、社会的に自立できるよう取り組む治療と教育のこと。「療育手帳がなくても、自治体が発行する『通所受給者証』があれば1割負担で利用いただけます」と説明するのは、Leapの代表理事 原秀樹さん。療育手帳とは、知的障害者(および知的障害児)が補助を受けるために必要な手帳で、都道府県の知事が発行するものだ。療育手帳や障害者手帳を持たないが発達に気になるところがある子どもが、児童発達支援などの通所サービスを利用できるよう発行されるのが「通所受給者証」、申請方法や手続きは自治体ごとに異なる。「メリットを必要とする人に十分な情報が届いていないのが現状。自分の子ども時代のような子にも、もっと気軽に利用してもらえたら」と、原さんは言う。

 大学を卒業し出版社に勤めていたころ、ふるさと長野に暮らす甥が小学校入学に際し、ADHD(注意欠陥/多動性障害)と診断された。自分の子ども時代に似ていると思った。「じっと座っていられない、皆と同じ行動ができない。当時の集団生活の中では叱られることも多く、摩擦の多い人生だった」と自らを振り返る。高3になった甥が自主退学寸前の状況に揺れたとき、原さんは思いとどまるよう説得した。卒業まで頑張り抜いた彼は、その後専門学校に進み自動車整備士になった。

 この経験が原さんの背中を押した。29歳で出版社を退職し医学部を受験。「児童精神科医を目指したんですが、かすりもしなかった」と笑う。自分にできることは何かと模索し、発達支援教室の立ち上げ支援団体のコンサルティングを受けた。さまざまな自治体の福祉課を訪ね歩き、縁あって国立で2017年に教室を開業した。

子どもたちの社会的自立を応援

前列左から原さん、小林栞名見さん、田口観月さん、後列左から成田優里さん、豊田千夏さん、椿徳子さん。この日は不在だった谷口由莉さん、池谷咲記さんの計8名で現在のLeapは運営されている

 「自ら現場に入る気満々でしたが、すばらしいスタッフに恵まれ僕は出番なし」と、原さんが信頼を寄せるスタッフは保育士、臨床心理士、言語聴覚士と多彩だ。発達支援の経験のあるスタッフの他に、保育園や幼稚園などの現場で発達の気になる子どもと出会い、一人だけに寄り添うことができなかった葛藤を経て療育の場を選んだスタッフが、Leapに通う子どもたちの情報を共有する。個別療育では一人ひとりの発達段階に合わせたプログラムを作成し、グループ療育では他の子どもやスタッフとの関わりを通して社会性を育む。この日もグループ療育の最後に、マジックミラー越しに見守る保護者に対し、スタッフがプログラムを振り返り、一人ひとりの成長を報告。ともに喜び合う光景が見られた。

地域の未就学児や誰でも気軽に見学できるイベント「あそびのひろば」も不定期開催する、明るくオープンな空間


一人ひとりの発達段階に合わせた療育が行われる教室。

 「発達障害」の未就学児を対象としているLeapにはダウン症の子もやってくる。「まずは気軽に見学にきていただければ。例えばかんしゃくを起こしたり、声が大きすぎたり、他の子とトラブルになってしまうお子さんをお持ちだと、児童館や公園に行きづらくなってしまうケースも多い。反対に、自分からのアプローチが少ないお子さんの場合は、手のかからない子とみなされてしまい、療育により成長する大切な時期を逃してしまうこともある。すばらしい可能性を秘めた子どもたちが、多数派と違うことでドロップアウトすることなく、社会的に自立し羽ばたいてほしい」。そんな思いを込めて原さんが「Leap(跳ぶ)」と名付けた教室は、3年目を迎えた今年の春、教え子を初めて小学校へ送り出した。



●PROFILE●一般社団法人Leap 代表理事 原 秀樹さん

 1975年長野県生まれ。法政大学(経営学部)を卒業後、出版社勤務を経て、児童発達支援事業所の立ち上げを目指し、千葉県の認定NPO法人「発達わんぱく会」の門をたたく。2017年一般社団法人Leap設立。同年5月、国立市に発達支援教室Leapを開設。

発達支援教室 Leap

  • <住所>国立市北2-13-48 ワコーレ国立102
  • <電話>042-505-7141
  • <FAX>042-505-7142
  • <メール>leapkunitachi@arrow.ocn.ne.jp
  • <ホームページ>https://leap-kunitachi.jimdo.com/

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