レポート
2017/04/27
暮らし続けたいまち、働き続けたいまち、訪れたいまちに注目
誇りと愛着を持って「人、つながる、墨田区」
墨田区
3級認定証を手に記念撮影。
右から、山本亨区長、講師 薄葉幸恵さん、すみだ観光ガイドの会 大出邦雄さん、両国中学校3年生(当時) 福田勝也さん
2020年のオリンピック・パラリンピックに向け、東京のいたるところでより多くの外国人や障害のある方を迎えるための準備が進んでいます。今回は「ユニバーサルツーリズム」の推進に力を注ぐ、墨田区の取り組みに注目。誰もが安心してまち歩きを楽しみながら「すみだらしさ」に触れることのできるまちづくりへの思いを、山本亨 墨田区長にお聞きしました。
未来を見据えた「ひとづくり」「まちづくり」
すみだらしい「おもてなしの心」を
東京都の東部に位置する墨田区。「すみだ」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは、やはり、東京スカイツリー、墨堤の桜、相撲の街・両国、職人文化が息づくものづくりのまち…。すみだには新しいものと古いものが共存し、たくさんの魅力があふれています。平成24年の東京スカイツリー開業以来、国内外からますます多くの来訪者が訪れる墨田区では、「すみだらしいおもてなし」を目指し、ユニバーサルツーリズム事業を推進しています。
その一環として、昨年の暮れに、墨田区役所で「ユニバーサルマナー検定」を開催しました。当日は、自身も聴覚障害のある株式会社ミライロの薄葉幸恵さんが講師を務め、約130人の受講者に講義を行いました。区職員や中学生らとともに参加した山本亨区長に、開催のねらいと参加の感想を聞きました。
「現在、すみだで展開しているユニバーサルツーリズム推進事業とは、健常者のみならず、障害のある方や、歩行困難な高齢の方、外国の方、誰もが安全に、安心してすみだの観光を楽しんでいただくための取り組みです。今回、その第一段階として、ユニバーサルマナーを学ぶ講座を開きました。私も、区職員、すみだ観光ガイドの会の皆さん、両国中学校の生徒さんたちと一緒に検定を受けてまいりまして、3級の認定証を頂戴しました。自分とは異なる、障害のある方や高齢の方の目線に立って、その方がどのような状況で何を求めていらっしゃるのか、気付くことが大事であると学ぶことができ、大変意義のある講義を受けさせていただいたと思っています。今回は、行政職員だけでなく、観光ガイドの皆さんや、両国中学の生徒さんにもご賛同いただき130名もの人が参加してくれました。これは大変うれしいことです。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催時には、本区においても国内外からたくさんの多様なお客さまの来訪が見込まれます。こうしたマナーを身に付けた区民の皆さんが先頭に立ち、すみだならではの優しいおもてなしの心を、多くのお客さまをお迎えすることに生かしていただければと思います。私自身も、まちで困っている人を見かけたときに、進んで一歩を踏み出すことが大事だと知りました。この検定で得たたくさんの新たな気付きを、みんなにやさしい『まちづくり』と、それを担う『ひとづくり』に生かしてまいります」。
北斎美術館から発信するアートの波
墨田区では、2016年11月22日に「すみだ北斎美術館」が開館しました。これにともない、同区では全国障害者アート公募展「みんな北斎」を開催。地域の応募者を発掘するためのワークショップなど、さまざまな関連イベントを行い、美術館の開館前から大いに盛り上げました。元来ものづくりのまちである同区には、職人はもちろんさまざまなアーティストも多く在住し、2013年には東京でも珍しいコミュニティ型クリエイター集団「すみだクリエイターズクラブ」も発足。関連ワークショップはこうした団体や、区内の企業、工房などの協力を得て開催されました。「北斎美術館は墨田区の念願だった」という山本区長に、今回の「みんな北斎」についてお聞きしました。
「北斎の生誕地である“すみだ”から、北斎のように既成の枠にとらわれない自由な発想を発信し、障害のある方の多彩なパワーを全国から発掘しようという主旨で、この公募展を開催しました。全国から1500点を超える作品をお寄せいただき、そのひとつひとつが、心のこもった素晴らしいものでした。作品の応募に際しては、おそらくそれぞれのご家族や支援者の方々のお力添えもあったことと思います。心から感謝申し上げます。中でも入選した方々は、一人ひとりがアーティストであり、まさにみんな現代の北斎であると感じました。こうしたイベントの開催が、障害のある人とない人が尊重し合いながら、住み慣れた地域で共に生きる社会の実現に向けて、大きく近づく機会になることを、心から願います」。
「すみだの夢」を共有し力を結集して実現を
墨田区では、2016年6月、今後10年間の区政運営の羅針盤となる「墨田区基本計画」を策定しました。さらに、夢と希望を育む、どこよりも素敵で魅力的な「暮らし続けたい・働き続けたい・訪れたいまち」を実現していく上で、優先的かつ重点的に取り組むべき施策を“夢”実現プロジェクトと位置付け、計画期間の前期5年間に重点的に取り組むことを決めました。
まず「暮らし続けたいまち」の実現に向けては「子ども・子育て環境の徹底整備」、「地域力日本一のまちづくり」を具体的な課題としてあげています。
「働き続けたいまち」の実現に向けては、「ビジネス」、「ものづくり」の両面から、区内中小企業の課題解決を支援。女性、若者、高齢者、障害者など、働きたい人が就労できる環境づくりを進めるため、さまざまな支援を行います。
「訪れたいまち」の実現に向けては、「すみだ北斎美術館」の運営、区内の美術館・博物館等をつなぐ観光ネットワークの構築、豊かな水辺を活用した魅力の向上、道路のバリアフリー化など、誰もが安心してまち歩きを楽しみながら、区内の至るところで「すみだらしさ」にふれることのできるまちづくりを進めます。“すみだの夢、実現プロジェクト”のリーダーである山本区長に、新年度への抱負をお聞きしました。
「すみだに関わる人と人とのつながりを大切に、区民の皆さん、事業者、地域で活動するさまざまな団体等と行政が“すみだの夢”を共有し、力を結集して、それぞれの役割を果たすことにより、その実現を目指していきます。区民の皆さんが笑顔で『すみだに住んでよかった』と、心から思っていただけるまちを目指して、これからも皆さんとともに全力で区政に取り組んでいきます」。
ユニバーサルマナー検定 3級講座を実施
墨田区では、2016年度にスタートしたユニバーサルツーリズム推進事業の一環として、2016年12月27日、墨田区役所において「ユニバーサルマナー検定」講座を実施。山本亨墨田区長をはじめ、区職員のほか、すみだ観光ガイドの会会員、墨田区立両国中学校の生徒ら合わせて約130人が受講した。
ユニバーサルマナーとは、障害者や高齢者など、自分とは異なる人の視点に立って考え行動するためのマナー。3級検定講座では、肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、内部障害など、それぞれに必要な支援が異なることや、街で困っている人を見かけたときの声の掛け方や配慮の仕方などを学ぶ。検定は準3級から2級まであり、ユニバーサルデザインの総合コンサルティング企業である株式会社ミライロの代表取締役社長・垣内俊哉氏が代表理事を務める日本ユニバーサルマナー協会が運営するもの。
受講後に両国中学ボランティア部の東優奈さんに感想を聞いた。「私たちは部活で普段からいろいろな人に接する機会はありますが、今日、学んだことで、自分たちにももっともっとできることがあるとわかりうれしく思いました」。
すみだ北斎美術館 開館記念プロジェクト
全国障害者アート公募展
「みんな北斎」を開催
写真はいずれも2016年7月23日に開催されたワークショップ「ほくさいあそび」の様子
墨田区では、2016年11月22日に開館した「すみだ北斎美術館」の開館記念事業の一環として全国障害者アート展「みんな北斎」を開催。同区では同年7月23日に、すみだ生涯学習センター「ユートリヤ」にて、関連イベントとして北斎画パネル展示とオープンワークショップからなる「ほくさいあそび」を実施。墨田区在住・在学・在勤の障害のある人とその家族を対象に、地域の応募者を発掘し、創作活動の気運を高めることを目指し行われたこのイベントには、総勢100名以上が参加。会場に敷き詰められた大きな白い紙の上を全身に絵の具をつけて転げ回るなど、五感を使った多種多様な表現を楽しみ、たくさんの応募作品がこの場から生まれた。8月10日~9月10日までの応募期間に、全国から寄せられた作品は、975名、1514点。厳正な審査により、約100点の入賞入選作品が選ばれ、12月9・10・11日の3日間、東京スカイツリータウンにて展覧会を開催した。
「北斎の生きたすみだ」として、同区では今後も、北斎のように既存の枠にとらわれない自由な発想から生まれる新しい障害者アートの波を伝えていく。