レポート

2022/03/31

新生活のスタートに 新たな視点を持とう

 春は新生活が始まる季節。新しい環境でさまざまな出会いもあることでしょう。自分ではない誰かの視点を想像するだけで、今まで気付かなかったことも見えてきます。「HEART DESIGN FOR ALL」では、誰もが暮らしやすい社会の実現を目指し、ソフトとハードの両面から考えるためのヒントをさまざまな企業や団体に取材し紹介してきました。これまでに出会った方々の中から、4人にあらためてお話を聞き、新生活をスタートする皆さんへのメッセージをお届します。

 

障害を価値へ、それがバリアバリュー

 

 私は、骨が弱く折れやすい病気のため幼少期から車いすに乗っています。2010年に障害(バリア)を価値(バリュー)に変えようとミライロを設立しました。2015年に東京新聞さんが弊社の理念に強い関心を持ってくださり心強く思いました。

 弊社では障害のある方をモニター会員とした「ミライロ・リサーチ」という事業を通して、当事者の声を反映したバリアフリー化を推進しています。また障害のある方への接遇を「ユニバーサルマナー検定」としてプログラム化し、延べ14万人に習得いただいています。2019年には障害者手帳を電子化したアプリ「ミライロID」をリリース。交通機関や娯楽施設など幅広い業界から約3000以上の事業者に導入いただき、障害のある方の外出機会も広がっています。

 日本のダイバーシティ(多様性)は、この数年で大きく進みました。そしてそれは2022年の今も失速することなくさらに大きな動きにつながっていると感じています。

 誰もが自分の弱み(バリア)を強み(バリュー)に変え、「人と違う」ことを価値にできる時代です。コロナ禍で他者とつながることが困難な今だからこそ、街や学校や職場で、困っている人に出会ったら、勇気を持って一歩を踏み出し続けてほしいと思います。

垣内 俊哉さん
株式会社ミライロ 代表取締役社長
1989年生まれ、岐阜県中津川市出身。2010年、立命館大学在学中に(株)ミライロを設立。14年、日本を変える100人として「THE 100」に選出される。22年、財界研究所「経営者賞」を受賞。同年3月『10歳から知りたいバリアバリュー思考 自分の強みの見つけ方』(KADOKAWA)を出版。

 

どんな環境に生まれてもフェアに生きられる社会を

 

 私は名古屋市内で生まれ、育ちました。高校を卒業した春休みに親しい友人だけに、「自分はゲイである」とカミングアウトし、大学入学とともに上京しました。大学2年のとき思い切って母にカミングアウトをすると「やっと言ってくれたね」と、受け入れてもらえました。

 性の多様性について理解は進み、社会は変わりつつあるけれど、まだまだ限定的です。私はたまたま周りに受け入れられましたが、家族からこそひどい発言を受ける人もたくさんいます。個人の性のありかたを、本人に同意なく第三者に暴露することを「アウティング」といいますが、たとえ善意であっても、本人に確認せず誰かに伝えることが、当事者にとって命の危険につながることもあります。

 大学在学中に性的マイノリティに関連するさまざまな団体に参加し活動する中で、多様性を受け入れる人が増える一方で、全く関心のない人とのギャップが広がっていると感じました。どんな地域に生まれても誰もがフェアに生きられる社会を実現するには、国レベルの法制度が重要だと気付き、団体を立ち上げました。性的マイノリティの人が暮らしやすい社会は、巡り巡って誰もが暮らしやすい社会です。身近にいることを実感して、一人の「人」として関わりを持ってほしいと思います。

 

松岡 宗嗣さん
ライター/一般社団法人fair代表理事
1994年愛知県名古屋市生まれ。明治大学卒業後、政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fairを設立。各種メディアでも性的マイノリティに関する記事を執筆。著書に『あいつゲイだって~アウティングはなぜ問題なのか?~』(柏書房)がある。

 

選ばれる企業であるために「仕事も人生も楽しく」

 

 当社は愛知県瀬戸市の運輸会社です。創業は1954年、現在社員数106名。男性中心の業界において当社のダイバーシティの取り組みは、2014年に子育て期の女性社員の働きやすさ改革から始まりました。その後、LGBTQ社員の入社をきっかけに、私自身LGBTQに関する知識やサポート方法を学び、現在は障害のある人、外国人、多様な人材が活躍できる環境を整えています。運輸業というと女性が少ないイメージですが、女性社員も2割、管理職の比率もほぼ同等です。

 採用を考えると、企業の改善策は自ずと見えてきます。少子高齢化、人口減少が進み、企業が人材を選ぶことが難しいこれからの時代に、選ばれるためには何をすべきか。これまで掲げてきた「仕事を楽しく」というスローガンから、今後はさらに「仕事と人生を楽しく」をモットーに、職場環境をさらに整え、よりよい「人財」を蓄え、地域社会の課題解決に貢献してまいります。

 中小の運輸会社ながら新卒者からの問い合わせも年々増えています。若い方の就職活動へのエネルギーを、もっと自由にオープンに、自分らしい職場選びに注ぎ込める社会になってほしい。そして、そのときに選ばれる企業であるために、誰もが働きやすい職場づくりを今後も進めてまいります。

 

鍋嶋 洋行さん
大橋運輸株式会社 代表取締役
1968年生まれ、大学卒業後に地元信用金庫勤務を経て、妻の祖父が創業した大橋運輸に984月入社、同年11月に代表取締役に就任。ES(社員満足)の施策からダイバーシティ経営や健康経営に取り組み、個人では市民後見人として活動。

 

働くことは生きること、誰もが幸せに働ける社会を

 

 20代後半のころ体調を崩し東京から山梨に戻り、回復後に働き始めた地元の派遣会社で、初めて外国人労働者と出会いました。少子高齢化の進む日本で必要不可欠な人材である彼らが、言葉や見た目の問題で不利な境遇にある事にがくぜんとし、製造業への外国人派遣を主事業とした会社を起業しました。社名には「ドアを叩いてくれた人すべてに応えたい」という思いを込め、国籍、年齢、障害の有無などを問わない多様性を重視した採用やライフステージに配慮した働き方を推進しています。

 2018年には企業主導型保育園を、2020年に地域密着型家事代行事業を開始。外国人だけでなくLGBTやシニア、一人親家庭など、働きづらさを抱える全ての方の役に立ちたいと考えるようになり、今後は農業や福祉などに関わる事業に挑戦するべく準備を始めています。

 誰にとっても、働くことは生きること。「働きたい」と思うすべての人の思いに応え、さまざまな背景を持った一人ひとりが最大限の力を発揮できる場所を提供し続けていきたいと考えています。今後は「働き手」も自ら働き方を考え、選択していくことが大切です。誰もが働くことで幸せになれる社会を目指し、皆さまと共に歩みを進めてまいります。

 

渡辺 郁さん
株式会社アンサーノックス 代表取締役
東京都内の学校を卒業後、流通業界を経て人材ビジネスに携わる。その後、高校までを過ごした山梨に戻り2008()アンサーノックスを設立。外国人労働、女性活躍、多文化共生等の課題に大学や自治体等の地域社会と協業し、多様性を尊重した経営を進める。

 

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