レポート

2019/06/29

7月1日はこころの日  一人ひとり違う「こころ」の健康

 7月1日は「こころの日」です。これは1998年に日本精神科看護協会が、精神疾患や精神に障害のある人に対する正しい理解と、すべての人にこころの健康の大切さを考えてもらうことを願い制定しました。「こころの健康を考える時、大切なのはバランス」と話すのは、同協会の業務執行理事、草地仁史さん。こころの健康を通して、誰もが安心して暮らせる社会づくりを目指す、同協会の活動についてお聞きしました。


一般社団法人 日本精神科看護協会 業務執行理事(医療政策部部長)
草地 仁史さん

「こころ」の健康状態は見えづらい、言いづらい

 「こころの日」制定のきっかけは、1988年7月1日に施行された「精神保健法」にあります。この法律は、精神疾患を罹患(りかん)されている患者さまに適切で安全な治療を提供するために定められたものです。現在では「精神保健福祉法」と改正され、精神に障害のある方への医療、保護、社会復帰の促進などのみならず、国民の精神保健の向上を図ることも目的とされています。

 厚生労働省の医療計画では、これまで4大疾病としていた、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病に、2013年から精神疾患を加え5大疾病と位置付けました。2014年の患者調査によれば、精神疾患を有する患者数は全国で推計392万人。この15年間で外来患者数が2倍となり、特に認知症とうつ病などの気分障害が増加しています。

 精神疾患に対する社会の理解は以前よりは深まりましたが、その症状に対する認知や理解はまだまだ十分とはいえません。その理由のひとつに「見えづらさ」があります。風邪であれば咳などの症状が出て、周囲に気付いてもらえますが、こころに過度な負担がかかっていても、周りから見えづらいだけでなく、本人も無自覚で過ごしてしまうことが多いのです。もうひとつの理由が「言いづらさ」で、実はこれが重大です。本人がこころの負担を自覚していても「みんなこのくらい頑張っているんだから」と、なかなか口に出せない。その結果、周囲もSOSに気付くことができず、見過ごされてしまうことがあります。

※「精神疾患を有する総患者数の推移」

「こころ」のあり方の違いを認め合える社会へ

 私は精神科の看護師として10数年、こころの健康をサポートさせていただく中で、こころも体もバランスが崩れたときに健康から不健康に置き換わる例をたくさん目にしてきました。健康とは「ある環境の中で生きていく上で恒常性をいかに保てるか」と考えることができます。同じ環境であっても、それに適応する能力には個人差があり、状況によっても変化します。栄養や睡眠が不足したり、免疫力が低下すると風邪をひくように、こころも栄養や睡眠の足りない状態で頑張り続ければ、誰でもうつ症状を呈する可能性があります。

 近年、性別や国籍、障害の有無などの多様性を認め合うことについて社会の関心が広がっていますが、そのような風潮は健康を考える上でもとても良いことだと思います。体もこころも、一人ひとり皆違うということを認め、理解し合うことにつながるのではないかと思うのです。国や都道府県単位での啓蒙も大切ですが、より小さな単位での理解も重要です。例えば家族であっても、こころのあり方は各々違います。親がストレスに感じないことも、子どもにとってはストレスかもしれない。相手のこころを想像し、接し方を変えることは、相手の生きやすさにつながります。さまざまな人への対処や理解が全国で促進されていくことを願い、当協会では2009年から「こころの健康出前講座」を実施しています。思春期のお子さんの心理、認知症のご家族のケア、企業でのストレスマネジメントなど、全国に約500人在籍する講師がご希望に合わせ対応しています。

 例えば、今の時期ですと新入社員や学生が体調を崩しがちです。新生活の緊張感が一時的な集中力を高めている場合、慣れたころにこころのバランスが崩れることがあります。反対に、GWや夏休みの後も、環境が変わることでバランスは崩れがち。こころの健康を保つのに大切なのは、睡眠、食事、適度な運動です。そのバランスは一人ひとり皆違うのだということが理解された上で、お互いにこころの健康を育んでいけるような社会になっていくことが我々の願いです。ぜひ「こころの日」に、身近な人と、普段はちょっと言いづらいことも話してみようかなと思っていただけたらうれしく思います。


●PROFILE●
一般社団法人 日本精神科看護協会 業務執行理事(医療政策部部長)
草地 仁史(くさち ひとし)さん

 2004年精神科認定看護師を取得し病院内で看護コンサルト業務を担当。病院看護師と専門学校のスクールカウンセラー、山口大学大学院医学系研究科講師、宇部市障害福祉課職員、精神科病院の看護部を対象とする人材育成や教育プログラム等についてのコンサルト業務などを経て、2014年山陽学園大学大学院看護研究科准教授就任。2017年より現職に就任。

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