レポート

2018/08/31

9月1日 「防災の日」に話そう 平常時にできること

左から飯島さん、大方さん、後藤さん

7月に西日本を襲った豪雨により、200人を超える方々の尊い命が奪われ、今なお多くの方が避難生活を強いられています。地震や洪水などの災害は、いつどこで発生するかわかりません。もしも避難が必要になったら? 避難所や仮設住宅で暮らすことになったら? 高齢の方や障害のある方を地域で守るために、どのような配慮が必要でしょう。いざというとき支え合うための情報を専門家にお聞きしました。


すべての人を 災害から守るため 地域社会の連携を

東京大学高齢社会総合研究機構
    • 大方潤一郎さん 機構長・教授(工学博士)
    • 飯島勝矢さん 教授(医学博士)
    • 後藤 純さん 特任教授(工学博士)

    ●PROFILE●
    東京大学高齢社会総合研究機構

    日本をはじめ世界各国で広く急速に進行する高齢化にともなう諸問題を解決するため、東京大学の関係教員・学生の総力を結集し2009年に設置された部局横断的なハブ組織。
    WEB:http://www.iog.u-tokyo.ac.jp/

 

大方 大規模災害による高齢者の生存リスクについては、避難・避難所・仮設住宅、3つの段階でそれぞれの問題があります。まず避難時は、防災無線が聞こえない、聞こえても判断が遅れる、準備が困難、移動能力の問題もあります。一人暮らしの高齢者、足腰の弱い人や車いすの人を誰が介助するのか、平時から地域のサポート体制を定めておく必要がありますね。

飯島 例えば、在宅医療に携わっている医師の情報を地域の医師会がデータベース化し行政と共有していれば、非常時に車いすや在宅酸素、人工呼吸器を使用している人の安否を優先確認できます。これからの防災訓練は、地域の連携シミュレーションが必要だと思います。

大方 避難所での生活については、運動不足や栄養不足による健康リスク、メンタルの問題がありますね。

飯島 東日本大震災のときも、避難所に飲料水は届いているのに脱水状態の人がたくさんいました。大勢の人の間を縫ってトイレに行きづらいと、水を飲むのを我慢する高齢者が多かった。

後藤 和式トイレしかない避難所の場合、しゃがめないから使えないという現実もあります。

大方 急ごしらえの避難所では、孤立した人や弱った人に配慮できる司令塔がいないという問題がありますね。

後藤 自治会や町内会そのものが高齢化していて、いざというときに避難所運営の活力を発揮できないケースも各地で見られます。

飯島 避難所の責任者や担当保健師が、足腰の弱った高齢者に「オムツを」と言う人なのか「私が手伝うから頑張ってトイレに行きましょう」というこだわりを持つ人なのかで自立度は大きく変わります。

大方 仮設住宅に移ってからはどうでしょう。

飯島 超急性期や急性期にはない、慢性期のぽっかり空いた心に、サバイバーズ・ギルトと呼ばれる問題があります。家族を失った人が生き残った自分を責めてしまう心理です。地域のネットワークやカウンセリングが必要です。

後藤 それまで近所づきあいのあったコミュニティでも、被害状況に差があると「普通に話せない」、「話し相手がいなくなった」という声があります。

大方 世帯ごと独立後は、特に高齢者の場合、引きこもりがちになり、心身の虚弱化や持病の悪化などが見られますね。

飯島 災害を生き延びた人が、その後の不安定さで亡くなる「災害関連死」、これをいかに防ぐかは地元の底力にかかってきます。

大方 地震列島で、台風の通り道で、超高齢社会を迎える日本では、どんな地域でも、避難・避難所・仮設住宅、3段階のシミュレーションが必要ですね。

飯島 避難準備のアラートが出たら「必ず避難する」という徹底も必要です。

後藤 昼間はそれぞれ別の場所にいる家族間のシミュレーションも大事ですよね。

大方 読者の皆さんもぜひこの機会に、身近な人と災害への備えについて話し合ってみてください。


【TOPIX】

西日本豪雨 障害者の約8割が避難できず

(株)ミライロでは、自社調査機関に登録する障害のある当事者モニターを対象に「西日本豪雨における困りごと調査」をインターネットにより実施。7/20~27の調査期間に209人が回答した。うち避難指示・勧告を受けた地域にいた人に「すぐに安全の確保をしたか」を聞くと、79%の人が「しなかった」と回答。その理由として「避難所まで一人で移動することが困難」という意見が多く見られた。回答者全員に「防災において希望する配慮」を聞くと、肢体不自由の人からは「障害者はどこに避難すべきか事前に自治体から情報を得たい」(東京都40代女性)などの意見が挙がった。

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