レポート

2019/11/29

<寄稿>横浜音祭り2019インクルージョン事業②
分身ロボット『OriHime』で遠隔地から音楽鑑賞

 横浜の「街」そのものを舞台とした日本最大級の音楽フェスティバル「横浜音祭り2019」が9月15日から約2か月間にわたり開催されました。今回、「クリエイティブ・インクルージョン」がコンセプトの一つとして掲げられ、国籍、ジェンダー、世代や障害の有無を超えてあらゆる人に音楽の楽しみをお届けする取り組みが行われました。5つのインクルージョン事業に携わった5名の方がレポートします。


<寄稿>横浜アーツフェスティバル実行委員会 今西めぐみ

 横浜音祭り2019では、「クリエイティブ・インクルージョン」の一環として、音楽フェスティバル史上初となる、分身ロボット『OriHime』を活用し、障害などの身体的制約がある方が遠隔で音楽鑑賞することが可能となる「OriHimeプロジェクト」を実施した。OriHimeは、吉藤 健太朗氏が開発した分身ロボットで、カメラ、マイク、スピーカーが搭載されており、スマホやタブレットで遠隔操作をすることができる。また、アプリを操作することで、周囲を見回したり、拍手などの感情表現を行ったりすることができるため、「その人がそこにいるように」会話をすることができるのが大きな特長である。

 OriHimeを活用することで、自宅や病院からもコンサート会場の臨場感を体感することができ、実際にコンサート会場で鑑賞しているかのような体験をすることができる。また、OriHimeを通して意思疎通を図ることができるため、コンサートの中継映像を単に見るだけでなく、現地の家族や友人などと感動体験を共有し、実際その場にいるかのように大切な人とのひとときを楽しむことができる。

 今回、音祭りで開催されたプログラムのうち、「オープニングコンサート」、「わくわくブラス!」、「わくわくJAZZ♪」、「ヨコハマ・ポップス・オーケストラ」、「クロージングコンサート」の5公演で、障害などの身体的制約により外出の難しい方が、OriHimeを通じて公演を鑑賞した。

 今回のOriHimeプロジェクト実施にあたっては、横浜市内在住者から観覧者を募集し、希望があった方には、OriHimeの隣に家族や親族に座ってもらい、一緒に公演を鑑賞いただいた。また、OriHimeの製作元である株式会社オリィ研究所と連携して選定した「OriHimeレポーター』がOriHimeを通じてコンサートを体験し、音祭りの公式ウェブサイトで「OriHimeレポート」として配信している。

 OriHimeプロジェクトを実施した公演の1つである「ヨコハマ・ポップス・オーケストラ」は、映画監督の本広克行監督のプロデュースにより、作曲家の菅野祐悟、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、ももいろクローバーZ等が出演し、異ジャンルのコラボレーションが実現したスペシャルな公演となった。ドラマ「踊る大捜査線」やアニメ「PSYCHO-PASS」のテーマ曲など、馴染みのある曲がオーケストラやパイプオルガンによって再現された。OriHimeを通してこの公演を鑑賞したさえさん(ハンドルネーム)は、「音楽のジャンルの垣根も超えて、ホール全体の一体感を感じられるひと時でした。終演後、同じくOriHimeで参加していた隣の席の女の子と「楽しかったね!」と話すこともできました。こうして余韻を誰かと分かち合うことができるのも、その場にいたからこそ。音楽の力、そして楽しさを会場のみなさんと共有できたことをとても嬉しく思います」と、その感動を伝えていた。

 葉加瀬太郎、MayJ.などが出演した「クロージングコンサート」では、障害者スポーツ文化センター横浜ラポールから『OriHime』を通じてコンサートを鑑賞する試みを実施し、音楽ホール等を訪れることが難しい方々がラポールに集まり、コンサート鑑賞を楽しんだ。コンサートでは大ヒットした「アナと雪の女王」の主題歌「LET IT GO」や、人気番組のテーマ曲「情熱大陸」など、誰もが知る名曲も演奏され、観覧者は一流アーティストによる演奏を堪能した。

 いずれの公演でも、出演者や関係者が客席に座るOriHimeに関心を持ち、公演時間外にOriHimeに話しかけるなどお互いコミュニケーションを楽しむ様子が見られた。電話に向かって話すのとは違い、手を動かし表情豊かに動くOriHimeと話していると、実際にその場にいる相手と話しているように感じられ、これまでにない不思議な感覚を楽しんでいるように見えた。また、公演後には「OriHime」同士で感想を共有するなど、新たなコミュニケーションも生まれていた。「OriHime」により、会場に出向かなくても音楽を楽しめる環境をつくり、実際に多くの人に自宅や病院などからコンサートを鑑賞いただくことができ、外出が困難な方に音楽の楽しさを広げる新たな試みとなった。


横浜音祭り(ヨコオト)公式サイト https://yokooto.jp/

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