レポート

2019/12/04

<寄稿>横浜音祭り2019 インクルージョン事業⑤
『林英哲 若葉台特別支援学校/和太鼓ワークショップ』

  横浜の「街」そのものを舞台とした日本最大級の音楽フェスティバル「横浜音祭り2019」が9月15日から約2か月間にわたり開催されました。今回、「クリエイティブ・インクルージョン」がコンセプトの一つとして掲げられ、国籍、ジェンダー、世代や障害の有無を超えてあらゆる人に音楽の楽しみをお届けする取り組みが行われました。5つのインクルージョン事業を活動に携わった5名の方がレポートします。


<寄稿>横浜アーツフェスティバル実行委員会 菊地健一

 「あなたに届く、あなたの音楽。すべての人に届くところまで音楽を運びたい」-それが、「横浜音祭り2019」の想いです。「インフラのように音楽を街のすみずみまで」「あらゆる人に音楽の楽しみを」という理念に共感した和太鼓のトップアーティスト林英哲、加えて英哲風雲の会 田代誠、辻祐の3名が演奏会に先駆け、9月20日(金)、24日(火)、27日(金)の3日間、横浜市の周縁部の横浜市立若葉台特別支援学校(横浜わかば学園)において、演奏披露、ワークショップ、こどもたちとの発表などを行いました。

 横浜わかば学園は横浜市内唯一の肢体不自由教育部門(A部門)と知的障害教育部門高等部(B部門)が併設された学校です。A部門は特にほとんどの児童が車椅子で、バチを持つ握力も弱い子も多く、どのようなワークショップ展開が可能なのか、アーティストと共に下見を重ねました。担当教諭と事前に議論を重ね準備しました。B部門は、鑑賞は全員ですが体験は和太鼓サークル(和太鼓経験者)を対象とすることになりました。A部門とB部門では対象者の体力がかなり差がある展開となりました。

 肢体不自由教育部門では3日間のプロジェクトでした。初日は林英哲ら3名の演奏を鑑賞しました。80名を越える子どもたちが「轟く太鼓」、「歌と太鼓」、歌舞伎の雨や雪など「情景の太鼓」など多様な太鼓の表現を味わいました。落ち着かない子もおりましたが、皆太鼓の音色に興味が高まりました。演奏を重ねるごとに表情が豊かになりました。最後に触ってみたい子は触ってみようということになり、半数くらいの児童が太鼓に触れ、バチで自分なりに音を出してみました。2日目と3日目は高校生中心の20名程度でワークショップとなりました。林英哲先生の「わ・か・ば・がくえん」掛け声にあわせて太鼓を打つ練習をしました。自分で打てる子は両手にバチを持って、最後にはテンポに合わせて打つことが出来るようになりました。握力の弱い子は先生が片手を添えるなど補助をえて、太鼓を打ちました。3日目はこれまでの学びを活かして、多くの職員が集る前で発表しました。間近で感じる太鼓の振動は子どもたちに新たな体験を与えることが出来ました。

 一方、知的障害教育部門高等部の初日は落ち着いた環境で演奏を鑑賞しました。曲目は同じでしたが、曲が終わるごとに同級生と顔を見合わせて驚いている姿が印象的でした。初日の夕方に、林英哲先生が直接、B部門内の和太鼓サークル(和太鼓経験がある子)の指導を引き受けていただきました。先ほど聴いたばかりの先生の演奏をどうにか身に付けようと子どもたちからも質問が飛び交いました。構え方についての指導を経て、林英哲作曲「千の海響」を練習しました。先生からは「歌詞を覚えておくように」と宿題が出ました。学校に、ワークショップの一週間和太鼓を置いておいたので自主練を重ねた生徒もいたようです。最終日には、復習を何回か重ねて、50人くらい集ってくれた生徒・職員の前で発表しました。高校生は心を一つに演奏し、和太鼓の楽しさを聴きにきてくれた方も含めて共有できる発表会となりました。

 子どもたちとのワークから1ヶ月半。11月9日(土)関内ホール大ホール(14時開演)の「横浜音祭り2019スペシャルコンサート 林英哲・太鼓の世界」公演においては、ホワイエにて若葉台での活動の様子を紹介し今回の演奏会の社会的な意義を紹介しました。また終演後、林英哲先生が、演奏会に駆けつけた児童・生徒と、感動の再会の場面もありました。林先生はサインや写真など気持ち良くお受けいただきました。 林英哲氏の演奏の素晴らしさと、世界のトップアーティストが社会的な活動にも目を向けていることを同時に伝えられたことが、一番の成果となりました。


横浜音祭り(ヨコオト)公式サイト https://yokooto.jp/

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