連載コラム

2020/09/30

連載コラム 今日は誰目線? -千円ピッタリに収めるための会議-

岸田ひろ実

国籍、年齢、身体特性などの多様性を力に、社会に新たな価値を創造する(株)ミライロのメンバーが、リレー形式で登場しそれぞれの視点で執筆します。


千円ピッタリに収めるための会議

 ダウン症のある息子、良太は24歳。得意なことは、コンビニへのおつかいです。食パンや牛乳など簡単な物なら喜んで引き受けてくれます。なぜなら、お釣で好きな物を買っていいからです。ジュースや色鉛筆、から揚げなど、その時によって色々。ただ、いくら持たせてもいつもお釣は2円か3円。計算できないのにほぼピッタリで買い物をしてくることがずっと謎でした。
 ある日、良太のおつかいに少し離れて付き添ってみることにしました。慣れた様子でカゴを持ち、頼んだ物と自分が欲しい物をいくつか入れてレジへと向かう良太。どうやら予算をオーバーしていたようで、「これとこれ、どっちにしますか?」「じゃあこっち」といった、店員さんとの会議が行われていました。

いつも家族のことを気にかけてくれる良太


 先日は、冷凍炒飯が欲しいと千円を握りしめて家を出た良太がどや顔で持って帰ってきたのは、7個の炒飯と4円のお釣。「えっ?7個も?」と驚きましたが、店員さんとの「千円ピッタリに収めるための会議」を想像すると楽しくなりました。良太にはできないことがたくさんありますが、コンビニの店員さんとこんな会議ができる人はなかなかいないはず。良太の行く先にはきっと、障害があっても、なくても、気軽に声をかけあえる、そんな優しい社会ができるんだと思っています。


●岸田ひろ実
株式会社ミライロ ユニバーサルマナー部講師。知的障害のある長男を持つ母親と車いすユーザーの当事者の視点から、障害との向き合い方を伝える講師。

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