レポート

2024/06/28

<寄稿>第8回「将来のお金や障害者手帳の話」/「発達障害について学ぼう!」全10回シリーズ

中部学院大学非常勤講師

山内康彦

【障害者手帳の種類とメリット・デメリット】

 現在、日本には、優れた福祉制度が多くあり、障害の状態に応じて様々な福祉サービスを受けることができます。ここで注意したいのが、“障害者手帳の有無”で受けられる福祉サービスと受けられない福祉サービスがあるということです。例えば、「放課後等デイサービス」や「就労移行支援」などは、『受給者証』といって、医師の診断や意見書があれば、利用ができます。しかし、「一般就労の障害者枠(※4月から4.5%以上に変更)」などは、『障害者手帳』がないと利用ができません。つまり、お子さんが18歳の時に“障害者手帳が取得できるかどうか”はとても重要な問題となります。私が多くの相談をしていると「手帳を申請したが、手帳が取得できずに一般就労障害者枠の就職ができなかった」「中学校になって療育手帳が外された、中学校卒業後の進路に困っている」というような相談が多くあります。

 障害者手帳には3種類があります。『身体障害者手帳』『療育手帳(愛護手帳)』『精神障害者保健福祉手帳』です。手帳の種類によって、若干福祉のサービス内容が変わることがあるので確認が必要です。(※例 精神障害者保健福祉手帳は一部の鉄道で割引がきかないなど)障害者手帳を持っていると、「税金の控除が受けられる」や「公共施設が無料や割引で利用できる」など様々なメリットがあると言われていますが、“差別や偏見”は依然として大きく「一定の職業に制限がある」や「保険の契約でクレームがつく」だけでなく、「結婚に反対される」ことや「アパートの契約を断られた」などの苦情相談を受けることが私は多くあります。「お守りだよ」「一応持っておいたら・・・」という軽い気持ちで取得するものではないことを知ってもらいたいと思います。

【障害者の将来のお金の話】

 保護者の多くは、「貯金」や「土地などの不動産」を残すことによってお子さんの将来に備える方が多いようです。それはそれでよいのですが、私のように多くの事例と関わっていると注意しなくてはいけないことがいくつかあります。今回はそのことをお伝えしたいと考えています。

 まずは、障害のある子が成人になるまでに準備すべき「三種の神器」についてお話しします。それは、『実印登録』『貯金通帳2つ』、そして『マイナンバーカード』の3つの準備の重要性です。

 『実印登録』がなぜ必要かというと、これは、保護者に万が一の事があったときに“遺産分割協議”で必要となるからです。成人になると、本人が実印の登録をしなくてはいけません。保護者の代理は認められないのです。印鑑の変更はあとからすればよいので、まずは、万が一の時のために『実印登録』を済ませておきましょう。

 『貯金通帳2つ』がなぜ必要かというと、通帳1つにまとめたお金を盗られてします事件が後を絶たないことです。先日も、入所している福祉施設の従業員が、障害者のカードで勝手にお金を引き出し、発覚前に行方をくらましたというニュースがありました。大きなお金は、信頼できる人が管理し、施設等に預ける通帳は最低限にするという防御策をオススメします。

 『マイナンバーカード』がなぜ必要かというと、写真付きの身分証明書が必要になる時があるからです。定型発達の人は「運転免許証」を提示することがほとんどです。しかし、障害者手帳のある人の多くが「運転免許証」を取得していません。そうなると、様々な場で、身分証明書として障害者手帳をさらすことになるのです。ぜひこの3つの準備は早めにすることをおすすめします。

 続いて『生命保険』と『生命保険信託』の有効活用についてのご紹介です。日本人の多くは、資産を残す手立てとして「土地や家屋」「貯金」をあげる人がほとんどです。これを悪いとはいいませんが、先ほどお話しした万が一の時に“遺産分割協議”が終わるまで資産が凍結されることが多いのです。「お葬式代も引き出せなくて困った」という話を聞いたことも少なくありません。しかし、『生命保険』は違います。亡くなったすぐ後から、遺産分割協議なしで受取人がお金を受け取ることができます。つまり、『障害のある子に生命保険の受取人になってもらえばよい』という結論です。ただ新たな問題が発生します。「保険金の受け取りがスムーズにいくかどうか?」という問題です。ご安心ください。現在はいくつかの保険会社が『生命保険信託』といってお金の残し方を事前に決めておき、万が一の後に代行してくれるサービスがあるのです。ぜひお調べください。

特別支援にかかわる内容は、
進路もお金も『早期からの準備が大切』

 将来は『後見人』を使うという方法もあります。成人後見人制度には、裁判所が決定する『法定後見人制度』と、本人が決定する『任意後見人制度』があります。任せる内容や費用等の問題が発生します。楽して解決する方法はありません。弁護士等に依頼すれば当然安くはない料金が発生します。保護者が元気なうちに早期からの相談と準備が必要です。

 最後に『年金』についてです。一般的に年金は、60歳以上(65歳以上で)受給できるものですが、障害のある人は早く受給することができます。そのための条件として障害の重さ等、様々なことがあるので、「もらえると思っていなかった」ということがないように「年金事務所」や「地域の障害年金相談センター」に早めに問い合わせるとよいと思います。

山内康彦

中部学院大学非常勤講師
学校心理士SV・ガイダンスカウンセラー
(一般社団法人)障がい児成長支援協会 代表理事・元日本教育保健学会理事

山内康彦

1968年3月30日生まれ 岐阜県
 専門は特別支援教育と体育。岐阜県の教員を20年務めた後、坂祝町教育委員会で教育課長補佐となり、就学指導委員会や放課後子ども教室等を担当。その後、岐阜大学大学院教育学研究科(教職大学院)で学び、小中高・特別支援学校の専門職修士となる。その後、学校心理士やガイダンスカウンセラーの資格も取得。私立小学校の勤務を経て、現在は(一般社団法人)障がい児成長支援協会の代表理事を勤めながら、学会発表や全国での講演会活動、教職員等への研修講師を積極的に行っている。現場目線で、具体的な解決策を提案する講演会は各地で好評を得ている。2020年3月には、岐阜大学大学院地域科学研究科を修了。本年度、学校心理士スーパーバイザー(SV)資格取得。著書には「特別支援教育って何?(WAVE出版)」「体育指導用教科書(学研)」「特別支援が必要な子の進路の話?(WAVE出版)」等多数あり。

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