レポート

2024/07/30

<寄稿>第9回「障害のある子の支援の仕方」/「発達障害について学ぼう!」全10回シリーズ

中部学院大学非常勤講師

山内康彦

【できることからの出発】

 “特別支援教育は「教育の原点」”とよく言われます。私は長年学校勤務(小1~中3の全ての学年を担任)と教育委員会勤務をしてきましたが、様々な子どもたちと関われば関わるほどそのことを痛感しました。今回話すことは、特別支援教育の基礎的な内容ですが、定型発達のお子さんの支援にも役立つ内容と考えています。        

 よく、「定型発達の子どもの教育」と「特別支援の子どもの教育」と何が違うのかを端的に答えて欲しいという質問をよく聞きます。私は、以下のように考えています。

「定型発達の子どもの教育」=『できないことへのチャレンジ教育』

 通常の学級では、「今日は繰り上がりのたし算をやりますよ」や「逆上がりに挑戦しますよ」などといった課題提示がされます。「ぼく知ってるよ」「私できるよ」といった子どもたちのつぶやきが想像されます。そうです。通常の学級に所属している多くの定型発達の子どもたちは、今までに“できた経験”や“成功体験”が多くあります。ですから少々難しい課題が与えられても「チャレンジしよう!」という前向きな気持ちになって取り組むことができるのです。みなさんの経験から言えば、小学校の時に取り組んだ『なわとびカード』がよい例でしょう。頑張った分だけできるようになり、級が上がって、色塗りしたり、シールを貼ってもらったりして喜んだことがあると思います。しかし、特別支援が必要な子どもたちは、そのような成功体験が少ないのです。

「特別支援の子どもの教育」=『できることからの出発教育』

 成功体験が少なく、失敗体験が多い子どもたちに、「今日は繰り上がりのたし算をやりますよ」や「逆上がりに挑戦しますよ」と投げかけると、「ぼくは無理!」「わたしはやらない!」といった反応が返ってきます。そうです。自信がないのです。今までに失敗経験が多く、「チャレンジしよう」という前向きな気持ちになれないのです。では、どうしたらよいか?「まずは、繰り上がりのないたし算からやってみよう」「まずはできる前回りおりからやってみよう」と投げかけるのです。今できることから取り組み、できた経験をたくさん積む中で、「もっとやりたい」「次に挑戦したい」という気持ちを育んでいくのです。ですから、現在は、“無理して通常の学級で頑張らせる”より“特別支援学級で、その子に合った学びに取り組む”という考え方の時代になってきています。特別支援学級に対する理解も深まってきました。特別支援学級から通常の学級に戻る子も増えています。

【叱ることと、ある程度ゆるすこと】

 特別支援が必要な子どもたちと関わっていると、つい叱ることが増えてしまうものです。目につくこと全てが気になるからです。しかし、子どもたちの立場からすると、「何をやっても先生に叱られる」「お母さんはいつも怒ってばかり」と言われてしまいます。(※確かにその通りです・・・)私たち大人は、“そのことが本当に叱らなくてはいけないことなのか”を考える必要があると思います。「早く起きなさい」や「しっかり歯を磨きなさい」「大きな声で挨拶しなさい」などは、確かに大事なことですが、そこまでして叱る内容のことではないと考えます。本当に叱らなくてはいけないことは、『将来警察に捕まること』と『他人に迷惑をかけること』この2つです。そう考えると、叱ることは随分と減ると思います。具体的には“家の財布から少額でもお金を持ち出す”“携帯から勝手に課金する”“口をふさがす、おおきなくしゃみをする”ということは、しっかりと叱らないといけないということになります。叱るときには、それは、『将来警察に捕まること』、『他人に迷惑をかけること』だからということをしっかりと説明してから叱ることも大切です。

【必ずやらせることと、無理させたいこと】

 園や学校では、日常ではまず行わない“レア”なケースを体験させられることがよくあります。様々な体験をさせることは教育としては有効ですが、その必要性と優先順位を考えたときに、そこまでしてやらなくてはいけないことなのか?を考えていくことは特別支援が必要な子どもにとっては大切であると思います。例えば、“薬を飲んで運動会に参加させる”や“保護者と一緒に修学旅行に行く”ことなどがあげられます。本人が望んでいるのであれば、やらせることに価値はあります。しかし、先生や親の思いが主になっている場合は、無理をさせないことがよいと考えます。基準は『そのことは、大人になってやることなのかどうか?』です。基本的に大人になってやらないことは、無理させたいことが原則と考えます。そう考えると「集団で朝登校すること」「給食を残さず食べること」「合唱や観劇会に参加すること」「大縄跳びを飛ぶこと」などは無理をさせないことになるのかも知れません。逆に、『大人になってやること』としては、子どものうちから必ずやり切らせたいものです。例えば「毎日お風呂に入ること」や「朝起きて着替えること」、「毎日外に出ること」、「トレイから出たら手を洗うこと」などがあります。本人にも『大人になってやることだよ』と話して取り組ませるとよいと思います。

 障害のある子に対する支援としては、『その子を共感して受け入れる姿勢』を大切にして欲しいと思います。今まで褒められた経験の少ない子どもたちは、“この大人は自分を受け入れてくれ人なのか?”を試してきます。そして、『この人は自分を受け入れる気持ちがない』と思うと、言うことを一切聞かなくなります。特別支援教育の世界では、専門性が重要視されていますが、私自身が専門家になって一番思うことは、『本当の専門性は、資格や経験より、子ども理解の力だ!』ということです。皆さんも、支援が必要な子ほど、共感的に理解しようとする気持ちを第一に支援を行っていってください。

山内康彦

中部学院大学非常勤講師
学校心理士SV・ガイダンスカウンセラー
(一般社団法人)障がい児成長支援協会 代表理事・元日本教育保健学会理事

山内康彦

1968年3月30日生まれ 岐阜県
 専門は特別支援教育と体育。岐阜県の教員を20年務めた後、坂祝町教育委員会で教育課長補佐となり、就学指導委員会や放課後子ども教室等を担当。その後、岐阜大学大学院教育学研究科(教職大学院)で学び、小中高・特別支援学校の専門職修士となる。その後、学校心理士やガイダンスカウンセラーの資格も取得。私立小学校の勤務を経て、現在は(一般社団法人)障がい児成長支援協会の代表理事を勤めながら、学会発表や全国での講演会活動、教職員等への研修講師を積極的に行っている。現場目線で、具体的な解決策を提案する講演会は各地で好評を得ている。2020年3月には、岐阜大学大学院地域科学研究科を修了。本年度、学校心理士スーパーバイザー(SV)資格取得。著書には「特別支援教育って何?(WAVE出版)」「体育指導用教科書(学研)」「特別支援が必要な子の進路の話?(WAVE出版)」等多数あり。

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