連載コラム

2019/09/04

垣内俊哉「106cmの視点から」

カウラ事件の慰霊式典

 8月5日。お世話になっている方のご縁で、私はオーストラリアを訪れ、カウラ事件の慰霊式典に参列しました。カウラ事件とは、第二次世界大戦中、オーストラリア北部の捕虜収容所で、集団脱走を図った日本兵231人と、警備をしていたオーストラリア兵4人が亡くなった事件です。脱走の成功者は0人。当時日本兵は「生きて虜囚の辱めを受けず」の心構えを教え込まれていたと聞きました。

 私は式典で、当時の捕虜だった村上輝夫さんと出会いました。村上さんは、会う人、会う人に「戦争がなくなって、本当にありがたい」と、感謝を告げられていました。

 式典の日は氷点下でした。ガタガタ震える私が、ふと隣を見ると、村上さんは微動だにせず、静かに収容所の跡地を見つめられていました。村上さんは戦時中、飢えと熱でもうろうとしながら、ヤドカリや野草を食べ、ジャングルを歩いたそうです。村上さんの姿を見ると「寒い」「車いすで不便だ」という弱音が急に立ち消え、今を生きているだけでありがたい、という感謝がこみ上げてきました。式典には、想像を絶する過去を歩み、平和な未来を築いてきた生き証人が何人もいました。「平和になりますように」という漠然とした願いが、「これからを生きる人のために、平和を作るのは自分だ」という強い決意に変わった出来事でした。


●PROFILE● 垣内 俊哉
1989年生まれ。岐阜県中津川市出身。2012年立命館大学経営学部卒業。在学中2010年に株式会社ミライロ設立。

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