インタビュー

2021/03/01

ひと言の声掛けで 心の距離を縮めよう

一般社団法人 盲導犬総合支援センター 理事

佐々木 義明 さん

 新型コロナウイルスの影響で、他人との間に約2メートルのソーシャルディスタンスが求められるようになり早1年。しかし、視覚障害のある方たちは、この距離が保たれているかどうかを確かめることができません。昨年11月、一般社団法人盲導犬総合支援センターでは、盲導犬ユーザーの声を反映した「コロナ禍においての声かけ方法」をSNSで発信しました。同法人の理事である佐々木義明さんに、この投稿の意図や、街で視覚障害者と出会ったとき私たちにできることをお聞きしました。


視覚障害のある方たちのコロナ禍の悩みとは

 声掛けを広める活動をする中で、ある盲導犬ユーザーに、このコロナ禍において、困っていることはないですか?とお尋ねしたところ、「ものに触れることにためらう」ということが挙げられました。視覚障害のある方は触覚で認識することが多くあります。例えばスーパーで野菜や果物を触って選ぶ際「周りの人からどう見られているか不安になる」という声がありました。そして「ソーシャルディスタンスを保てない」という声です。 盲導犬はソーシャルディスタンスを取るための訓練は受けていません。目の見えない方にとっては、他人との距離をちゃんと取れているかどうかを知るすべがありません。レジなどで並んでいるときに、床に貼られた目印が見えないと距離の取り方がわかりません。前後に並んでいる方が「3歩進みましたよ」というように声を掛けてくださるととても助かります。

一人でも多くの人に声掛け方法を知ってほしい

 私共では、コロナ禍以前から盲導犬ユーザーへのお手伝いの方法を紹介する「声かけパンフ」を制作し、4年間で 50 万部を配布してまいりました。その背景には、2016年に地下鉄の「青山一丁目駅」で、盲導犬ユーザーの方がホームから転落して亡くなるという痛ましい事故があります。私共も大変心を痛め「なにかできることを」と、このパンフレットが誕生しました。現在では、さまざまな駅や公共機関で、お困りの人への声掛けを促すアナウンスが進んでいますが、実際にどのように声を掛けたらよいのかはまだまだ戸惑う方が多いのではないでしょうか。より多くの方に声掛けの方法を知っていただこうと活動する最中、このコロナ禍で、パンフレットの配布機会も減ってしまいました。そこで、昨年 11 月にツイッターで「コロナ禍においての声かけ方法」を紹介したところ、「いいね!」3万件、リツイート2万7千件、さまざまな企業やメディアの方にも取り上げていただき、大変ありがたく思っています。

お手伝いの方法がわかる「声かけパンフ」も配布中


こちらのQRコードからダウンロードが可能です

声を掛け合う風景が当たり前の社会を目指して

 コロナ禍に関係なく、声掛けの大切さや方法は同じです。盲導犬ユーザーを見掛けたときは、盲導犬に触れたり呼び掛けたりせず、必ず盲導犬ユーザーに声を掛けてください。「すみません」や「ちょっと」ではなく、「盲導犬をお連れの方」と呼び掛けていただくと、盲導犬ユーザーは自分に声を掛けてくれたのだとわかります。そして「お手伝いしましょうか」の声掛けのあと、お手伝いの内容を聞きます。目的地への誘導やお手伝いが終わったら、黙って立ち去るのではなくぜひ「ではここで失礼します」のひと言をお願いします。きちんとお礼を言おうと思ったらもう相手がいなかった、これ、結構あるあるなんです(笑)。
 もしもお手伝いを断られたとしても「大丈夫ならよかった、お気をつけて」と見守って、引き続き声掛けの気持ちを持っていただけるととても嬉しいです。
 迷いのない足取りの方はお手伝いを必要としない場合が多いのですが、危険な方向に進行していたり、信号を待っているときなどは、声を掛けていただけると安心です。盲導犬は信号の色はわからないので。
 コロナ禍で人との関わり方が変わっても、声掛けの方法は変わりません。街中に困っている人がいれば、障害のあるなしに関わらず、気軽に声を掛け合う、そんな風景が当たり前な世の中になることを目指して活動していきます。

盲導犬ユーザーに聞いたコロナ禍においての声かけ方法