インタビュー

2022/12/28

子どもに幸せな食事の時間を

かるがも藤沢クリニック/看護師

天満 麻美さん

育児の悩みの中でも「補完食(離乳食)※1を食べてくれない」など食に関する悩みは、保護者にとって切実な問題です。神奈川県藤沢市内の小児医院「かるがも藤沢クリニック」(院長 江田明日香さん)では、乳児期から実践できる“赤ちゃんの育ちに合った補完食”を学べる「ごはんクラス」を定期的に開催しています。子どもの食で大切にしたいことは何か、教室の講師を務める同クリニックの看護師・天満麻美さんへのインタビューとともに「ごはんクラス」のレポートをお届けします。  ※1 「補完食」とは、WHO(世界保健機関)が「離乳食」に代わる言葉として提唱した、 母乳だけでは足りなくなる栄養を補うための食事のこと

乳児も「自分でごはんが食べたい!」

当クリニックでは、子どもの健やかな成長を応援したいと、授乳相談や発達支援など様々なサポートを行っています。子どもの「食」に関するお悩みも多かったため、2017年に個別相談ができる「ごはん外来」を開設。でも、院長やスタッフと「外来に来るほど深刻になる前に、ごはんを好きになる方法はあるよね」と話し、18年、以前から健診時にアドバイスしていた赤ちゃんの育ちに合った補完食(離乳食)について学べる「ごはんクラス」を始めました。参加対象は、これから補完食を始める、または初めて間もないお子さんと親御さんです。

子どもの育ちはすべてがつながっています。おうちで身体を使う遊びをたくさんしてもらうと、赤ちゃんが自分の身体の動かし方を知ることができるので、スムーズに食べる準備が整います。補完食が始まると、親御さんはちゃんと成長するようにと育児本のマニュアル通りに食事を与えようとして、思うように食べてくれずに悩むケースが多く見られます。私も自分の子どもの食事で悩んだ時期がありましたが、ある日子どもが「これはきらい」と意思表示するようになり、よく観察すると甘いものが苦手だったんです。一方、食卓にあったキムチを食べたがったので食べさせたら「おいしい!」と(笑)。それ以来、意欲的に食べるようになりました。その時に思ったのは「私が食べさせたいものと、この子が食べたいものは違う。子どもも意思を持った一人の人間なんだ」。子どもの食べ方にも個性や発達のペースがあるし、自分で食べ物を見て感じて、納得して食べたいのですよね。

赤ちゃん主導の食事「手づかみ食べ」

「ごはんクラス」では、イギリス発祥の赤ちゃん主導の補完食の進め方「Baby-Led Weaning」(※2)を参考に、赤ちゃんの「手づかみ食べ」を応援しています。最初のステップでは、あえて硬くて大きいもの、例えば、握りやすいように棒状に切った生野菜などを与えます。初めは舐める程度ですが、自分で手に取り観察し、口に入れてよいものか、どう口に運んだらいいかなど試行錯誤を繰り返します。赤ちゃんが食べている最中は、窒息がないよう保護者は近くで見守ります。次のステップでは、唾液で溶ける硬くて大きいもの、せんべいなどに挑戦。慣れてきたら、おにぎりや手羽元などを与えてみると、上手にかじり取れるようになる子もいます。

「手づかみ食べ」は、食べる意欲に火をつけ、食べるスキルを身につけることができます。これだけで栄養を摂ろうと考えず、母乳やミルクも与えましょう。そして、この方法を試す際に大切にしてほしいのは、親御さんが「子どもの“自分で食べる力”を信じて待つこと」。失敗してもいい、何度も経験することで学び、自信につながり、食べる量も増えていきます。また、子どもは周りをよく見ているので、家族が楽しそうに食事をする食卓で同じ食べ物をシェアしてもらえると、満足度もぐっと上がります。

よく親御さんに「いつから普通のごはんが食べられますか?」と聞かれますが、その答えはお子さん自身が持っています。そのことを心に留めつつも、心配ごとや悩みがあれば一人で悩まず、食事支援を専門とする医療機関へご相談ください。子どもにとっても、家族にとっても、ごはんが幸せな時間になる方法は必ずあると思います。

2 Baby-Led Weaning(ベイビー・レッド・ウィーニング)はイギリスの保健師・助産師のGill Rapley氏によって提唱された、赤ちゃんの意思を尊重する食事法。

“手づかみ食べ”を学べる かるがも藤沢クリニックの「ごはんクラス」をレポート!

11月下旬、「ごはんクラス」に月齢5〜6カ月の赤ちゃんとお母さんの計5組が参加。講師の天満さんは「子どもに食べるスキルを身につけさせることは大切」と語り、「手づかみ食べ」の実践法や注意点などを紹介しました。講義中、実際に手づかみで食べている子どもの動画も視聴。せんべいやさつま芋、メロンを自分で持って少しずつ食べている子どもの様子を見て、親御さんたちは「すごい!」と感心。「自分に適した一口量を知ることもできるし、手先の器用さにもつながります」と天満さん。多くのメリットを知った親御さんたちは「ドキドキするけど、やってみたい」と意欲を見せました。現在、ごはんクラス卒業生で、楽しくごはんを食べている親子はたくさんいるそうです!


参加者の声

赤ちゃんの食事はペースト状の味が薄いものというイメージがありましたが、食べ物の色や形が分かる状態で与えてもいいのですね。私は食べることが好きなので、子どもにも好きになってもらいたいです!

上のお兄ちゃんがブロッコリーを食べていると今6カ月の下の子も「食べたい!」と手を伸ばしてきます。今日学んだことはできそうな気がします。いろいろ試してみたいです。

プロフィール

かるがも藤沢クリニック/看護師 天満 麻美(てんま あさみ)さん

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