インタビュー

2023/02/09

つながり合い 自分らしく生きる

特定非営利活動法人 ハイヒール・フラミンゴ 代表

野間 麻子さん

義足になっても自分らしく、行けるところではなく、行きたいところへ行こう」。この理念のもと、女性義足ユーザーのコミュニティづくりを進めてきた特定非営利活動法人「ハイヒール・フラミンゴ」(大阪府大東市)。今後は東京都をはじめ、関東エリアでの活動も積極的に展開したいという同法人の代表・野間麻子さんにこれまでの活動や目指す社会についてお聞きしました。

「同じ境遇の女性に会いたい」

私自身は義足ユーザーではなく、20年以上義肢メーカー内の福祉用具店に勤務し、現在は店長を務めています。以前、社内で義足ユーザー向けのイベントを開催した際に、参加者の一人だった女性が私にこう言いました。「イベントに来るのは男性ばかり。義足の女性はなぜ来ないの?同じ境遇の女性に会いたい」。その女性は、のちに「ハイヒール・フラミンゴ」の活動を共に始めた高木庸子さんでした。日本では女性の義足ユーザーは全体の約2割しかおらず、義肢装具士や整形外科医も圧倒的に男性が多い現状がありました。

「他の女性ユーザーだって私と同じ思いのはず」。高木さんの言葉に背中を押され、2018年、社内イベントとして義足ユーザーの「女子会」を企画しました。運営スタッフを含め参加者は全員女性。会場を華やかに飾り付けして、音楽をかけてリラックスした雰囲気の中、互いに悩みを打ち明け合って、泣いて笑って盛り上がりました。皆さん、こういう場を求めていたことが分かりました。その後も女子会を継続していく中で、この先も活動を続けるなら団体名をつけようと皆で考え、女性ならではの靴の一つ「ハイヒール」と片足でも凛と立つ「フラミンゴ」を合わせ満場一致で「ハイヒール・フラミンゴ」に決まりました。

ハイヒール・フラミンゴ設立のきっかけを作った高木庸子さん。高校の教師を務めていた

思いや悩みを共有し自分を受け入れる

その後、女子会は「フラミンゴ・カフェ」という名で定期的に開催するようになり、着物を着たりネイルを楽しんだり、女性ユーザーが「義足だからできない」と諦めていたことにも挑戦しました。「もう一生着物を着ることはない」と思っていた女性は、着物を着て、義足側の草履が脱げないように固定して京都の街を歩きました。普通に恋バナもすれば、妊娠や出産、子育ての相談をすることもあります。「出産時に義足をつけていたか、外していたか」なんて、当事者同士でしかできない話ですよね。

ユーザーの要望で多かったのが「着物を着て歩きたい!」。女子会の企画で実現し、参加者の笑顔があふれる

 

義足ユーザーと一口に言っても、義足になった理由や義足の種類など一人ひとり違います。皆さん、この活動に参加するうちに互いの思いや悩みを共有し、心を開き、ありのままの自分を受け入れられるようになっていくようです。仲の良い友人にさえ義足であることを打ち明けられなかった学生も、今では障害者スポーツに挑戦し義足を隠すことなく活動しています。 

みんなの心の変化は、高木さんの影響も大きかったと思います。彼女は美しい名画がプリントされた義足をつけて、短パンを履いて歩いていました。ユーザーの多くが「義足を見せると怖がられるのではないか」と思う中、高木さんは「短パン姿の自分を見ても、嫌だと思わなかった」と言っていました。その言葉通り、短パンやミニスカート、ハイヒールを履きおしゃれする彼女の姿を見て、同じ境遇の女性たちも「自分らしく生きたい」と思うようになったのではないでしょうか。

(写真上)初めての「女子会」の様子。義足ユーザー、その家族、運営スタッフが集まり、思いや悩みを打ち明け合った(写真左)フラミンゴ・カフェではネイルを楽しむ会も開催(写真右)ハイヒールを履く高木さん。義足にプリントされているのはクリムトの名画『接吻』

「体の不自由」より自分を縛る「心の不自由」

義足のダメージにつながるため義肢メーカーが推奨しないネイル、ヨガ、海辺を歩くことこそ本人たちがやりたいこと。その意思を尊重したい、そしてメーカーの枠を超えて多くのユーザーと接点を持ちたいという思いから、2020年にNPO法人化を決意。しかし、高木さんと私が共同代表になって設立する直前に、彼女は義足になった原因の癌が再発し、この世を去りました。高木さんと出会って、道具や技術で支援することも必要だけど、人とのつながり、心のメンテナンスはもっと大切だと学びました。「体が不自由」であるよりも、「心が不自由」な方がやりたいことをやれず、行きたいところに行けないのだと感じています。改めて「ピア(仲間)サポート」活動を広げたいと思うようになりました。

これまでのフラミンゴ・カフェ参加者は、約500人。関西を中心に、当事者のみならず義肢装具士や理学療法士など多様な立場の方々が語り合いました。今後は関東での活動にも力を入れていく予定なので、新たな出会いを楽しみにしています。小さな活動でも、細く、長く、遠くまで届けることで、一人でも多くの人が自分の心を解放し、行きたいところへ行ける社会実現の一助になればと思っています。

 

プロフィール

のま・あさこ/大手義肢メーカー・川村義肢株式会社(大阪府大東市)内にある福祉用具店の店長として義足ユーザーに出会うなか、2018年より女性義足ユーザーのコミュニティ「ハイヒール・フラミンゴ」の活動をスタート。20年に同団体をNPO法人化。全国各地で講演なども行う。22年、社会課題解決に挑戦する女性リーダーに贈られる「第6回チャンピオン・オブ・チェンジ日本大賞」入賞。

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