インタビュー

2022/08/30

防災を日常に 防災を未来に

フリーアナウンサー/防災士/ 環境省森里川海プロジェクトアンバサダー

奥村 奈津美さん

830日~95日は防災週間、91日は防災の日です。

毎年9月1日は「防災の日」、この日を含む1週間が「防災週間」です。「知らないことが一番怖いこと。まずは地域のリスクを知ることから始めましょう」と話すのは、フリーアナウンサーの奥村奈津美さん。仙台で経験した東日本大震災以来、10年以上取り組んできた防災活動について、母となりより切実に感じる危機感、これからの時代に求められる防災の新常識について聞きました。 

 

東日本大震災で体験した死の恐怖と無力感

 2011311日、東日本放送のアナウンサーだった奥村さんは、仙台市内の自宅マンションに1人でいた。「午前中、沿岸部の畑を取材し、夕方の番組で放送するために収穫した伝統野菜を自宅で調理しているところでした」。経験したことのない大きな揺れを感じ、火を止めた次の瞬間、鍋はひっくり返り、冷蔵庫の上のオーブンレンジが水平に飛んだ。7階の玄関を開けると、向かいのマンションも大きく揺れ、手すりにつかまった人たちが悲鳴を上げていた。「放送では地震のとき『身の安全を確保してください』と呼び掛けるのに、あの時の私は安全な方法もわからず、安全な場所もなかった」と振り返る。

 仙台が被害の中心だと思い宮城県庁に向かうと、津波の映像が流れていた。余震が続く中、72時間の緊急災害報道への対応。寝食も忘れ、行方不明者の名前を繰り返し読み上げ、避難所で取材した家族を探すメッセージを紹介し続けた。41日付で広島の放送局への転職が決まっていた奥村さんは、残留を強く希望するもかなわず、後ろ髪を引かれながら引っ越し。「アナウンサーとしても未熟で、防災についても無知だった。あのときの無力感と後悔が、その後の活動の原点になっている」。その言葉通り、2011年以降に起きた災害被災地にはほぼすべて取材や支援ボランティアとして訪れた。

 

結婚し母になって実感した子どもを守るための防災

 防災活動をする中、2017年に結婚。翌年、妊娠7カ月で切迫早産となり緊急入院。絶対安静のベッドの上で「もしも今、大地震が来たら、どうしたらいいんだろう」と不安になった。いくらネットで検索しても、必要とする情報は得られなかった。無事母となり、防災への考え方はさらに変化する。「自分以外に守らなければならない命があるのに、子どもを守るための防災情報があまりにも少ない。ないなら自分で調べてみよう」と、専門家に取材を重ね、出版社に企画書を提案。「妊娠・出産したら備えるべきことを優先順に紹介し、読み進めながら備えれば確実に家族の防災力が上がるように」と、約半年で書き上げた。緊急事態宣言の影響で、仕事がキャンセルになった時間を生かし、コロナ禍だからこそできる新たな防災活動にも前向きに取り組んだ。

 

オンラインでつながること未来のためにできること

 そのひとつが、20205月にスタートしたオンライン防災訓練だ。2年間で60回以上開催し、延べ1万人が参加。自宅のライフラインが止まった想定で一日を過ごしてもらうなど、夏休みに子どもたちが参加できるような講座も実施。「自宅の防災力をその場で実感できるのはオンラインならでは」という手ごたえがあった。毎年実施してきた2300世帯対象の大規模マンションの防災訓練も、昨年はオンラインを活用して実施した。

 また、妊産婦、乳幼児、高齢者、障害者など災害時要配慮者とその家族が避難するための福祉避難所についても独自に調査し、自身のホームページで情報公開している。「乳幼児や障害児のママパパたちは一般の避難所に行くことをためらいがち。福祉避難所の存在すら知らないケースもある。大切な情報がそれを必要とする人に届いていない」と話す奥村さんは、近年日本各地で頻発する気候変動の影響を受けた豪雨災害にも警鐘を鳴らす。「大切な家族、子どもの命を守るためにまずするべきことは、自分の暮らす地域について知ること。最初に備えるべき防災グッズはハザードマップです」。

 これからの防災について奥村さんは最後にこう語った。「私たちは今、地震だけではなく気候変動とも向き合い、これまでに経験したことのない災害から子どもと自分の命を守ることができるかどうかの分かれ目にいます。地震の発生は防げないけれど、気候変動を緩和するためにCO₂の排出を減らすなどできることはある。『温暖化対策×防災』に取り組むことで、子どもたちに持続可能な未来を残すことができると信じています」。

 

奥村奈津美さんの著書紹介
~パパ、ママができる!!水害・地震への備え~
コロナ禍の避難の考え方・温暖化で頻発する豪雨など、新しい時代の災害を家族で生き抜くための“防災本”。これまでの防災関連書籍にはない「水害」への備えを丁寧に記述。長期的な意味での「防災」につながる「地球温暖化対策」等についても詳しく解説。(辰巳出版/20213月発行)

プロフィール

1982年、東京生まれ。東日本大震災を仙台で経験。防災士、福祉防災認定コーチ、防災教育推進協会講師、防災住宅研究所理事として防災啓発活動に携わるとともに、環境省の森里川海プロジェクトアンバサダーとして「防災×気候変動」をテーマに取材、発信中。一児の母。

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