インタビュー

2020/10/31

一人ひとりの「選択」が 地球の未来を変える

ループ・ジャパン アジア太平洋統括責任者 テラサイクルジャパン アジア太平洋統括責任者/日本代表

エリック・カワバタさん

 プラスチックごみによる海洋汚染などが問題になる中、「容器の再利用」という発想で使い捨て文化に挑む取り組みが、来春日本でも展開される。循環型プラットフォームLoopを運営するLoop Japan合同会社(以下、ループ・ジャパン)のアジア太平洋統括責任者 エリック・カワバタさんに、プロジェクト誕生の背景、日本市場への期待を聞いた。


使い捨ての“安さ”と“便利さ”に挑む

2019年5月、パリとニューヨークでスタートしたLoop とは、専用のリユース容器をユーザーの自宅から回収し再利用する循環型ショッピングシステムだ。この仕組みを開発したのは、世界 20 カ国でリサイクル事業を展開するグローバル企業テラサイクル。ゴム手袋やたばこの吸い殻など、リサイクルできないと思われていたもののリサイクルや、海洋プラスチック問題に、いち早く向き合ってきた。その経験からプラスチックのリサイクルの難しさについてカワバタさんはこう語る。「ほとんどのプラスチックは溶かすことで耐久性が下がる。100%同じ容器は作れない。もうひとつは石油価格が下がるとプラスチックの価格も下がり、再生プラスチックの価格も下がる。リサイクルコストが割高になりビジネスとして成り立たないのです」。そこでリサイクルに変わる手段として着目したのが“リユース”だ。「かつてアメリカでも日本でもさまざまな商品が容器を再利用していました。この仕組みを復活させるのは大変なことですが、私たちはチャレンジしています」。“リユース”を成功させるためには2つの大きな点で“使い捨て”と戦わなければならない。それは“安さ”と“便利さ”。耐久性のある容器のコストについては「例えば容器価格が300円で100回再利用できるなら1回あたりの容器代は3円でいい。初期投資をためらうことなく協力してくれる企業がどんどん増えています」。現在までに世界の 200 ブランド、500アイテム以上がLoop にラインアップしている。では便利さはどうだろう。通販の場合は専用トートバッグで玄関まで配達、同時に使い終わった空き容器を回収する。「ユーザーに負担をかけず回収された容器は、Loop の提携洗浄施設で洗浄され、各メーカーの工場で充填後、Loop の倉庫に戻ってくる仕組みです」。

“もったいない”文化の国だからこそ広げたい

  Loopでは、各メーカーが開発する専用容器について厳しい3つの基準を設けている。「最低10 回使い回せる耐久性、そして完全に洗浄できる形状、3つ目がLCA(Life Cycle Assessment)による環境影響評価です」。こうして開発されたリユース容器はデザイン性も高く、保冷機能や軽量機能など、さまざまな付加価値を備えたものも登場している。「今後はインターネット機能を搭載することによって、例えば一定残量になると自動的に発注できる容器を開発することも可能です」。
 昨年、Loop の海外消費者に利用メリットを調査した結果、1番多かった意見が“便利だから”だったことにカワバタさんらは驚いた。2番目が“容器のデザイン性”、3番目が“ゴミの減量”だった。さらにヒヤリングを進めると環境問題以前に“自宅のゴミ処理の手間がなくなった”という声が多かった。「この結果を知ったとき私たちは、使い捨て文化と戦う方法があると確信しました」。

2020年度グッドデザイン賞を受賞

 2020年にロンドンでもスタートしLoop は、ついに2021年3月に日本でも本格運用が始まる。「アメリカ、欧州、日本、“どこが一番成功すると思うか”とよく聞かれますが、私は日本だと思っています。日本にはもともと限りある資源を大事にする、“もったいない精神”が受け継がれていますよね」とカワバタさんは期待する。国内パートナー企業としてすでに 22 社が参加表明をしており定期的にミーティングを重ねる中で、カワバタさんは他国にはないパートナーシップも感じているという。「日本の将来のために単独ではできないことを共に実現しようとLoop に初期投資してくれるメーカー、容器メーカー、素晴らしい物流システム、小売店、さまざまな国内企業と組んで日本の循環経済のドライバーになりたい」。そう話すカワバタさんが何よりも期待するのは日本の消費者だ。「日本の皆さんが地球環境のために良いものを選び、悪いものを買わなくなれば、企業も変わります。 一 人ひとりが自分のお財布で地球の未来を買っているのだと意識してみてください。日本が世界のモデルになると期待しています」。