インタビュー
2021/03/31
誰もが自分に合った職場で働き続けられる社会に
ネクストワン 合同会社 代表
武田 吉正(たけだ よしまさ) さん
障害に関係なく、希望や能力に応じて、誰もが職業を通じた社会参加のできる「共生社会」実現の理念の下、国が定める障害者雇用率が、2021年3月1日から引き上げになりました。「障害のある方の雇用数は年々増加傾向にある一方、障害の種別によっては、職場定着率の低さという問題がある」と話すのは、ネクストワン合同会社の代表、武田吉正さん。同社が運営する、障害や病気のある人のための仕事口コミサイト「Umbre(アンブレ)」開発に込めた思いや、目指す社会の在り方について聞きました。
雨をやませることはできなくても傘になり共に歩んでいきたい
当社が2018年に立ち上げた口コミサイト「アンブレ」は、2020年12月に検索機能を導入し本格的にサービスを開始しました。お住まいの地域、業界、職種、病気や障害の種別など、様々な条件で検索することができ、自分と似た境遇の方が、その会社で実際にどのように働いていたかの口コミ情報を閲覧することができます。
当サイトを作ろうと思ったきっかけは、前職で病院患者向けの体験談共有サービスに携わった経験です。発達障害のある方に取材した際「どんな会社に勤めたらいいのかわからない」との相談を受け、障害や病気のある方たちには、仕事選びの参考にできる情報が少ないことに気付きました。一般的な求人情報だけではわからない職場の雰囲気、よかったこと、困ったことなどの情報は、障害のある方こそ必要としているのではないかと思ったのです。
サイト名の「アンブレ」は傘の意味です。人が仕事を見つけ、働くことは必ずしも楽しいことばかりではなく、雨の中を行くような気持ちになることもあるかもしれない。雨をやませることはできなくても、時には雨をよける傘となって一緒に歩めたらという思いから名付けました。
誰かの経験が大きな知恵に次の誰かの力に
厚生労働省のデータを調べていく中で、障害者雇用数は増加傾向にあるけれど、入社後一年間の定着率は低く、特に精神障害のある方の定着率は49.3%と半数にも満たないことがわかりました。精神障害の中には、うつ病や双極性障害(躁うつ病)も含まれます。こうした方たちが自分に合った職場に出会い、働き続けるためのお役にたてるように、サイト構築にあたり一番大切にしたのは、投稿内容の適切化。決して単なる批判サイトにしたくはありませんでした。ネガティブな意見も、ポジティブな意見も公平に、現在約9000件の口コミを掲載しています。誰かの工夫、苦労などの経験は、次の誰かの力になる。一人ひとりの知恵が大きな知恵になると思っています。
また、評判の良い企業の取り組みを独自に取材してサイト内で紹介しています。さまざまな企業の担当者にお話を聞いて感じたのは「弱さの情報共有」ができているということです。障害者雇用が進んでいる企業には、苦手なこと、困っていること、それに対するサポートの情報が常にアップデートされる仕組みがありますね。
自分が納得できる仕事を誰もが選べる社会へ
「働く」とは、いかに社会と関わるかだと思います。誰もが、自分が納得できる関わり方を選べる社会であってほしい。
この一年は、新型コロナウイルスの影響で働き方が大きく変わりました。障害や病気のある方にとっても、良し悪しがあったと思います。車いすユーザーの方やパニック障害の方は、電車移動のないテレワークがプラスになったケースも多い。一方で「リモートワークによる孤独が辛い」という精神疾患の方もいる。こうした悩みを解消するテクノロジーやサービスはどんどん増え、仕事の選択肢は急速に増えています。
今後は、当事者の方が自分の困りごとを自己分析するためのサポートツールも考えています。また、当サイトに集まった体験談をもとに、障害ごとの個別の困りごとや苦手なこと得意なこと、必要なサポートなどを体系化した企業向けサービスの提供も目指しています。苦手や得意は誰にでもあります。障害のある人が働きやすい企業は誰にとっても働きやすい企業。病気や障害のある人たちが、どんどん必要とされるようになったら、社会はがらりと変わると思っています。
○厚生労働省「障害者の法定雇用率の引き上げについて」詳しくはこちら
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaisha/04.html
プロフィール
1989 年生まれ。2012 年慶應義塾大学経済学部卒。同年(株)リブセンス入社、医療関連の新規事業を立ち上げ、事業責任者を務める。2018 年 5 月、障害者雇用の社会的課題を解決すべく、ネクストワン合同会社を設立。