インタビュー

2019/12/27

2020年は新たなスタート! さらに暮らしやすい社会へ

株式会社ミライロ 代表取締役社長
一般社団法人日本ユニバーサルマナー協会 代表理事

垣内俊哉さん

 東京新聞が垣内俊哉さんとともに「誰もが暮らしやすい社会の実現へ」というスローガンのもと「HEART & DESIGN FOR ALL」をスタートしたのは2015年9月。自分とは違う誰かの視点で社会を見ることの大切さを、私たちに気付かせてくれた垣内さんが、今、思うこととは? さらに、2020年への抱負、その先のヴィジョンもお聞きしました。


世の中は良くなっている 日本人ももっと自信を持つべき

 2010年、21歳のときに株式会社ミライロを大阪で設立し、14年に東京支社を開設。翌年、私自身も住まいを東京に移した頃、東京新聞さんとのご縁をいただき、この企画がスタートしました。5年目を迎えた今、感じていることは、社会の良い変化です。例えば東京の地下鉄の駅のバリアフリー化率は、14年当時69%でしたが、18年には88%までに上がりました。数字だけでなく本当に外出しやすい、暮らしやすい社会になったと実感しています。また、車いすを利用する人が街に出れば、誰かしら声を掛けてくれる社会になったと感じます。アメリカやヨーロッパならもっと声を掛けてくれるかもしれません。でもそれは日本人が冷たいわけじゃない。日本はバリアフリーが一定レベル実現できていて、声掛けの必要な場面が少ないからなんです。

 また、18年8月に省庁の障害者雇用の水増し問題が発覚したことで、日本は障害者雇用が遅れているという議論がなされました。でも30年前を振り返ってみれば、1989年に就業している障害者は19万5000人でした。今では82万1000人、4・2倍も増えています。10年前は4900人だった障害のある方の大学進学者数も、現在は3万3000人。障害者の進学も就労も進んでいるということを、しっかりと伝えるべきなのだと思います。他国と比較してできていないことにばかり目を向けていては、前に進めません。もっとポジティブにとらえ、先人が重ねてきた努力を評価し、感謝するべきだと思っています。社会をより良く変えようとする企業、自治体も増えています。ミライロが目指す方向に世の中が変わっていることを嬉しく思いますし、これからもっともっと変えていけるだろうなと感じています。

社会を変える 小さな一歩を踏み出し続けたい

 ミライロとしても私個人としても、この一年で一番大きな出来事は、障害者手帳をスマホアプリとして提示できる「ミライロID」の導入です。この事業で実現したかったのは「障害者手帳」という言葉の言い換え。初めてタクシーで使ったとき、運転手さんがあまりにもあっさり「わかりました」と言ってくださったので、我ながらびっくりしました。「ポイントカードあります」のごとく「ミライロIDあります」と言えたことに感動しました。

 10年前に起業した際、障害をなくすのではなく価値に変えようと、「バリアフリー」を「バリアバリュー」と言い換えました。医療、福祉、介護の領域にとどまっていた「障害者への対応」を「ユニバーサルマナー」と言い換えました。そして今回、ミライロIDという言い換えのレパートリーがひとつ増えたことで、社会を変える小さな一歩を、また踏み出せたかなと実感しています。今後はインフラとしての普及に向け、協力企業を増やし、民間企業の負担となっている障害者割引の運用ルール等が見直されるきっかけになればと思っています。

 今年はラグビーの世界的大会が日本で開催され、経済産業省が訪日外国人対策として推奨するキャッシュレス決済の取扱店が一気に増えました。さらに多くの多様な方々をお迎えする20年は、新しい仕組みを定着させる大きなチャンスと考えています。25年には大阪万博もあります。開催期間も185日、来場予想人数は2800万人ともいわれています。今より高齢者も増えますから社会の仕組みは変わらざるを得ません。さまざまな変化のある未来に向け、20年からまた「よーいどん!」という気持ちです。

 先日、街で東京新聞の読者の方から「いつもコラム読んでます」とお声を掛けていただき、うれしかったです。ミライロは11月にWEBメディア『スロウプ』を開設しました。来年はスロウプと連携した新しい連載をお届けできるよう準備中です。読者の皆さんとともに、新しい視点で、考えていけたらと思っています。


ミライロが運営するWEBメディア、『スロウプ』がスタート。

 『スロウプ』は、 “多様な思い”をより多くの人に届けるために、(株)ミライロが自らの運営により開設したWEBメディアです。ネーミングの由来は、段差を解消するスロウプ。さまざまな人と垣内さんとの対談や、インタビューなど、切り口を柔軟に変え情報発信していくという今後の展開が楽しみです。社会に新たな視点を生み出す、新しいメディアに注目!

詳しくは https://sloope.jp/

 

障害者手帳を、あなたのスマホへ。MIRAIRO ID

 障害のある人の移動や生活をもっと便利に、もっと自由に。

障害者手帳を所有している方を対象とした、スマートフォン向け障害者手帳アプリ。ユーザーは、障害者手帳(※1)の情報、福祉機器の仕様、求めるサポートの内容などを「ミライロID」に登録できます。公共機関や商業施設において、ユーザーが「ミライロID」を提示することで、障害者割引(※2)や、必要なサポートをスムーズに受けられます。

※1 障害者手帳……地方公共団体から発行される、障害を証明するための手帳です。身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳の3種類があります。 ※2 障害者割引……障害者手帳の提示により受けられる割引を、ミライロIDの提示でも受けることができます。なお、対象となる障害種別・等級・その他条件は、企業ごとに異なります。

詳しくはhttps://mirairo-id.jp/

 

プロフィール

 1989年愛知県生まれ、岐阜県中津川市で育つ。生まれつき骨がもろく折れやすいため、車いすで生活を送る。自身の経験に基づくビジネスプランを考案し、障害を価値に変える「バリアバリュー」を提唱。2010年立命館大学在学中に(株)ミライロ設立。当事者視点を取り入れた設計監修・製品開発・教育研修を提供する。

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