インタビュー

2016/10/10

一歩踏み込んで言葉を交わそう

ダイアログ・イン・ザ・ダーク アテンドスタッフ

谷口 真大さん

心に届くその一言が本当にうれしい

 「知らない人に声を掛けるって、勇気がいりますよね」。人懐こい笑顔でそう切り出す谷口さん。通勤電車の中で、前に座る人が席を立ってくれたことがある。「すごくうれしかったんですけど、降りるから立っただけか、自分が座っていいものか分からなくて」。せっかくの好意も、言葉にしなければ届かないこともある。

 網膜芽細胞腫により2歳で失明、4歳で阪神淡路大震災を経験。停電で真っ暗になった自宅で、壁伝いに家族を外へと誘導した。彼は今、人とのつながりを再認識する暗闇のエンターテインメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」のアテンドスタッフとして働く。「初めて会ったお客さん同士が、暗闇の中で言葉を交わすうちに打ち解けていく。その変化に毎回心を動かされます。でもそれだけで終わらず、明るいところでつながり合えることが本当の人との触れ合いですよね」。

 高校までは盲学校、大学で初めて“健常者の中で自分だけが見えない”世界を経験。聞こえてくる言葉の少なさに驚いた。「身振り手振りやアイコンタクトに一言添えてくれたら自分にもわかるのに」。その思いを仲間に伝えた。「ファミレスでメニューをどんな風に読みあげてほしいか。最初はハンバーグ、パスタ…とジャンルを読んでもらい、パスタがいいなと思ったらパスタの種類を読んでもらう」というように。同じ全盲の人でも、してもらいたいことはさまざま。だから、どうしてほしいかを自分から発信する。「僕の場合、歩き慣れ

た通勤路でも“同じ方面ですから一緒に歩きましょうか”なんて言ってもらえたら、すごくうれしい。一歩踏み込んで言葉を交わすって楽しいですよね」。
 アスリートでもある谷口さんは、リオパラリンピック男子陸上の有力候補選手。そしてもちろん、2020年の東京パラリンピック出場も目指している。「せっかく自国で開催されるのだから、メダルを取りたい」。

 2020年の日本には、どんな言葉があふれているだろう。障害者差別解消法の施行は、一人ひとりが心を開いて社会を変えるチャンスになる。

プロフィール

1990年兵庫県生まれ。暗闇の中を視覚障がい者に誘導されて歩く催し「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)」大阪会場アテンドスタッフ。男子陸上5,000m全盲カテゴリーでリオパラリンピック出場を目指す。 www.dialoginthedark.com

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