インタビュー

2021/11/01

聴こえない子を思いつながり合う父たち

ラインオープンチャット「聴こえない子のパパ&ママの集い」管理人

石川 阿 (いしかわ ほとり)さん

コロナ禍の教育現場では行事などの中止により保護者の交流機会も減っています。「聴覚障害児の保護者にとっては切実な問題」と話すのは石川 阿(ほとり)さん。ろう学校教員の経験を生かし、聴覚障害児を持つ保護者に情報交換の場を提供しています。そのひとつ「聴こえない子のお父さん オンライン飲み会」をレポートします。


地域も年齢もさまざまオンラインならではの幅広い出会い

 9月のとある土曜20時、石川さんがインターネット上に設けたミーティングルームに、参加者が続々とアクセスを開始しました。30代から50代まで年齢もさまざまな男性たち、彼らに共通するキーワードは「聴こえない子のお父さん」。メンバーの半数は石川さんがかつて教員を務めたろう学校(聴覚特別支援学校)の保護者OBで、長い人は10年以上の付き合いになります。以前は定期的に開催されていたリアルな飲み会がコロナで実施できなくなり、オンライン開催はこの日が2度目。北は北海道、南は沖縄から延べ約20人、内半数が初参加、自身も聴覚障害があり手話参加の人もいます。  全員が缶ビールやワインなどを手に、まずは乾杯!続いて自己紹介。居住地、子どもの年齢、相談したいことなど、最初の発言が一巡すると、ベテランパパが進行役を買って出ます。聴こえないパパのためにチャット入力を担当するメンバーも。見事な連携にホストの石川さんも感激する中、和やかに会は進行します。

当日のスクリーンショットより。“I Love You”を意味するハンドサインで記念撮影。
(最上段中央は主催者と運営協力者)

大切なのは子どもの気持ちを受け止めてあげること

 トークテーマは参加者への事前アンケートをもとに「子どもの将来(進学・就職)」、「家族のコミュニケーション」、「手話スキルの悩み」、「子どもの反抗期」、「ダウン症、発達障害などの重複障害」と、幅広く展開しました。  5歳女児のパパが「2年前に手話を習い始めたが仕事が忙しく続かない」と自身の悩みをこぼすと、初参加の3歳男児のパパも「子どもの自己流の手話を読み取れず、子どもがふてくされてしまう」と、コミュニケーションについてのアドバイスを求めました。娘を持つ先輩パパの「お風呂の中は1対1で楽しく手話を覚えられておすすめ。子どもの“伝えたい”気持ちを受け止めてあげれば大丈夫」という経験談に全員がうなずきます。  学童期の子のパパが「うちは宿題をしなくて困る」とぼやけば、別なパパが「うるさく言うと補聴器のボリュームを下げてわざと聴こえなくする」と共感を語り、参加者に笑顔が広がりました。

先輩パパから後輩パパたちへ強く優しいメッセージ

 聴こえる子と聴こえない子のきょうだいを持つ参加者も多く「健聴の子が、初めて遊びに行った友達の家で、家族全員が聴こえることに驚いていた」と話すと、別なパパも「うちの健聴の子も世の中には聴こえる人と聴こえない人がいるのがあたりまえだと思って育った」と言います。  一方で一人っ子のパパが「健聴の子を育てたことがないので、自分の悩みが聴こえない子ども故なのか、ただの子育てあるあるなのかわからない」と切り出すと、先輩パパたちからは「振り返ると、ほぼ子育てあるあるだった」という声。開始から2時間、ひとりも退室することなく、寡黙だった初参加メンバーも本音で語り始めます。  5歳男児のパパが「うちはダウン症もあり、知的障害のほうが気になっていらだってしまう」と苦しい胸の内を吐露すると、「気持ちはわかる。でも間違いなく成長してるから」と、中学生男子のパパで「おやじの会」の中心人物の一人。「うちの子は学習障害があって、学力は学年相当には程遠いかな。その子の“今”を見てあげて」と続けます。さらに先輩パパの一人が「子どもにいらいらするときって、今思うと自分にいらついているときだったな」とぽつり。若手もベテランも静かにうなずき、また一献。  その後、一旦お開きになった後も、一人の先輩パパを初参加の数人が囲み、「聴こえない子のお父さん飲み会」は夜中の2時まで続きました。

「聴こえない子のお父さん飲み会」をオンライン開催した思いとは

高2でろう学校教員を目指し、大学在学中にボランティアで通ったろう学校で、行事を支える「おやじの会」に出会いました。幼稚部勤務中は子どもに付き添うママたちの「パパにも子育てに参加してほしい」、「子どもに向き合ってほしい」という声もありました。仕事で不在がちなパパたちも「手話を覚える時間がない」、「家族のことを思っているけれど伝え方がわからない」という悩みを抱えています。それを気軽に話せる場があればと、全国から参加できるオンライン飲み会を企画しました。また子ども向けイベントや週2回、夜に手話勉強会なども開催しています。どこに住んでいても、一人ひとりに合った支援や教育が自由に選べるように、聴こえない子の保護者がつながるお手伝いができたらと思っています。

プロフィール

ろう学校(幼稚部・小学部)教員として10年間勤務。教員経験や保育士・手話通訳士などの資格を生かし、 保護者支援の取り組みや子どものためのイベントを開催する。現在、言語聴覚士の資格取得を目指し勉強中。

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