インタビュー
2020/03/31
子どもたちの可能性を最大限に広げられる社会の実現へ 4/2は世界自閉症啓発デー 正しい理解と早期支援を
自閉症児を支援する人の学びの場 特定非営利活動法人ADDS(Advanced Developmental Disorders Support)
竹内弓乃さん 熊 仁美さん
自閉症は先天的な脳の機能の違いです。その名称などから誤った印象を持たれがちですが、自閉症は心の病気ではありません。2016年の発達障害者支援法の改正により、行政支援も拡充される中、いち早く支援活動を始めた人たちもいます。特定非営利活動法人ADDSの共同代表・竹内弓乃さんは、大学在学中に自閉症がある子どもとその母親に出会い、早期療育の重要性を学び、2011年に同法人を設立しました。ともに共同代表を務める熊仁美さんと、お2人に、設立当時のこと、現在の取り組み、そして未来への展望をお聞きしました。
活動の原点は17年前、ある親子との出会いから
― ADDS設立の経緯をお聞かせください。
竹内 大学1年のとき、学内の掲示板で「言葉に遅れがある幼稚園児に、遊びの中で言葉を教えるアルバイト」という張り紙を見つけました。面接に伺うと個人のお宅で、4歳の男の子のお母さんが「うちの子は自閉症です。自閉症は先天的な脳の機能の違いです。エビデンス(合理的根拠)に基づいた早期支援を行うことで、認知コミュニケーション機能が向上することが、海外の研究で明らかになっています」と、教えてくれました。そのご家族はアメリカで生活されていて、あちらで受けていた「療育」というものが日本でまだ普及していなかったため、お母さん主導で継続するための助手を探していたのです。当時の私は、療育はもちろん自閉症についての知識もありませんでした。聡明で愛情深いスーパーマザーからたくさんのことを学び、その方のネットワークで他の自閉症児のお宅に一人で行くようになりました。2時間のセッションの最初には話せなかった言葉が、帰るときには話せるようになる。そんな現場を何度も経験するうちに「発達心理学を学びたい」と思い、2年次に「応用行動分析学・発達心理学」のゼミを選びました。そこで熊と出会ったんです。
熊 「こんなアルバイトがあるけど」と竹内に誘われ、現場で教わりながらスタートしました。お互い週に10件ほど掛け持ちで駆け回っていましたね。 竹内 情報交換しながら個々に活動を続け、3年次の終わりに将来のことを話し合ったんです。 熊 駅で別れ際の立ち話で(笑)。
竹内 「将来こういうことを仕事にできたらいいよね」と。そこでまず学生セラピストを増やすためのサークルを立ち上げました。 熊 その後初期メンバーで任意団体ADDSを立ち上げ、2011年にNPO法人化しました。
自閉症のかけらは誰の中にもきっとある
― ADDSの理念をお聞かせください。
竹内 第一に「保護者とともに取り組む」、次に「研究成果に基づいた手法を選択する」、そして「社会に変化を起こす」です。
熊 この3つは現在にいたるまでそれることはないですね。
竹内 最初に出会った親子との原体験があったので「親御さんがその子にとって一番の専門家になり得る」という確信がありました。支援教室での時間は支援内容を親御さんとシェアする時間でもある。持ち帰って家庭で1週間積み上げていただくことで、密度の濃い支援を届けることができます。
熊 支援方法を親御さんに伝授することをひとつのゴールとして卒業させることができれば、支援センターの待機児童問題も解消できます。より多くの人に提供することができ、効果を可視化できる支援モデルが地域で求められていると感じます。
竹内 私たちは支援現場で得た成果を大学と連携して研究にまとめ、それをまた現場にフィードバックしています。「研究成果に基づいた手法」を福祉の領域に根付かせていきたい。それが支援を必要とする方たちに対して誠実な姿勢だと思うのです。
熊 「社会の変化」という意味では、自閉症を含む「発達障害」という言葉も多くの人に知られ、理解は広がってきていると感じます。子どもたちが関わる地域のすべての人が、理解者、支援者となり、お互いの多様性を認め合えるような寛容な社会を目指しています。
― 自閉症啓発デーにあたり読者へのメッセージをお願いします。
熊 自閉症は正式には「自閉スペクトラム症」ともいいます。スペクトラムとは連続体という意味で、つまり境目はない。私たちの中にもそのかけらはあるのです。未来の社会にはきっと「発達障害」という言葉もなくなっていると思います。
竹内 自閉症は脳の機能の違いであり、なるべく早い段階で療育支援と出会うことで、その子の可能性を広げることができる、ということをもっともっと多くの人に知ってほしい。もしもお子さんの発達に気になるところがあれば、難しく構えず、まずは気軽に行政に相談してください。
「世界自閉症啓発デー」は、2007年の国連総会において決議され、全世界で自閉症を理解してもらうためのさまざまな取り組みが行われています。わが国でも毎年、世界自閉症啓発デーの4月2~8日を「発達障害啓発週間」とし、自閉症をはじめとする発達障害についてさまざまなイベントや、ランドマークのブルーライトアップ等の活動が行われています。自閉症をはじめとする発達障害について知ること、理解することは、発達障害のある人だけでなく、誰もが幸せに暮らすことができる社会の実現につながります。 自閉症を知っていますか? 〇脳の発達の仕方の違いである 〇他の人の気持ちや感情を理解することが苦手 〇言葉を適切に使うことが苦手 〇とても純粋で感じたままに話したり、行動したりすることがある 〇感覚が過敏であったり、記憶が抜群な人もいる
詳しくは、世界自閉症啓発デー 日本実行委員会公式サイト http://www.worldautismawarenessday.jp/
写真: 毎年この日はブルーに染まる東京タワー。2019年、(一社)日本自閉症協会撮影
プロフィール
竹内弓乃(たけうち ゆの)共同代表/保護者研修事業統括 臨床心理士
熊 仁美(くま ひとみ)共同代表/支援者養成事業統括 心理学博士