インタビュー

2019/12/05

横須賀市長・上地克明さんインタビュー

横須賀市が目指す未来像は
「誰も一人にさせないまち」

横須賀市長

上地克明さん

 神奈川県南東部に位置し、三浦半島の大部分を占める横須賀市。9月9日の台風15号の際は、東京湾フェリーの舟運を利用し、千葉県の被災地にいち早く職員を派遣しました。日頃から誰もが安心して暮らせるまち、一人ひとりが自慢に思えるまちづくりを目指す、横須賀市長・上地克明さんに、横須賀市の魅力やさまざまな取り組み、さらなる展望をお聞きしました。


台風15号の被災地千葉県にフェリーでいち早く職員を派遣

 「要請も協定もないのに、いいんですか?」と、横須賀市の職員も当初は戸惑っていました。今年9月の台風15号により、東京湾ひとつ挟んだ千葉県が苦境にあることをマスコミ報道などで知り、「何が足りないか、どんな支援が必要か」こちらから電話で聞くよう命じたときのことです。

 確かに行政の対応は、被災地から要請があれば助けるというものと聞いていました。横須賀市内でも倒木や停電などの被害がありましたが、幸いにして千葉県ほどに甚大ではありませんでした。ご近所さんが自分より困っていたら助けるのは当たり前のこと。横須賀市の久里浜港と富津市の金谷港は東京湾フェリーに乗れば片道40分。天気の良い日は本当に間近に見える「お隣さん」です。南房総の4市1町が災害廃棄物の処理に困っていることを聞き取り、本市から支援を申し入れました。

 横須賀市は昔から地域の絆が強く、困っている人を皆で助け合うという気質が受け継がれている素敵な市です。横須賀市の災害対策、台風被害後の対応をしっかり行うという前提で、「お隣さん」である千葉県が困っているときに助けてあげられるようなまち(市民の皆さんが誇れるようなまち)でありたいと思っています。

1960年に運行開始した東京湾フェリーの運行間隔は約1時間。東京湾横断クルーズを楽しみながら、天気の良い日には富士山も望める

内閣府「社会参加章」受章『湘南たかとり福祉村』の取り組み

 横須賀市は地形的に平地が少なく、リアス式海岸のように谷が入り組んだ谷戸と呼ばれる地域がいくつもあります。江戸時代の終わりに製鉄所ができ、造船所、海軍施設、戦後には自動車や造船業などが立地した関係から、全国からさまざまな人がやってきて、谷戸に多くの住宅が建てられました。私自身、谷戸の出身です。谷戸地域は、今では高齢化や空き家の問題があります。今年の台風のような災害の心配もあります。一番の力となるのは近所の助け合いであると考え、本市では谷戸地域だけでなく市内全域の支え合い活動の育成支援に力を注いでいます。

 支援対象団体は現在(令和元年11月)41団体。その中で今年、湘南鷹取地区の「湘南たかとり福祉村」を、社会参加活動事例として内閣府に推薦したところ、見事社会参加章(※)を受章しました。湘南鷹取地区は横須賀市の中でも新興住宅地です。昭和40年代に山を切り開いて造成された高台の住宅団地で、当時入居されて現在70代になる層が最も多いです。この方たちが中心となり約3300世帯ある湘南鷹取地区全域を対象に生活支援を提供するだけでなく、地域住民の生きがいや、やりがい、楽しみづくり、ひいては健康寿命の延伸にも貢献して頂いてます。こうした団体が横須賀市には41もあることが本当に誇らしいです。「湘南たかとり福祉村」のような地域で支え合う福祉の実現に向けて、横須賀市も積極的にサポートしていけたらと思っています。

>>>関連記事  福祉コミュニティ 湘南たかとり福祉村「できることを、できるときに」

神奈川県初の「パートナーシップ宣誓証明制度」を今年4月スタート

 横須賀というまちは、日本全国から人が集まり、皆で助け合ってつくりあげてきたまち。そういう意味では成り立ちからして「多様性を受け入れる社会」、今でいうダイバーシティ&インクルージョンを実践してきたまちといえます。私が子どものころからあたりまえのように、外国の人もいましたし、ハーフの友だち、障害のある人もいました。女性2人で夫婦のように暮らしている家のおばさんにかわいがってもらった記憶もあります。私自身はとりたててLGBT(性的マイノリティ)という言葉を使う必要も感じないのですが、当事者の方たちの暮らしやすさの保障のために、今年4月「パートナーシップ宣誓証明制度」をスタートしました。現在8組の方々へ交付しています。あらゆる差別をなくしたいということが私の政治信条でもあり、多様性を認め合う社会の実現や、多くの市民の方に性の多様性への理解を広めるためにも正式に制度の導入を決めました。

横須賀市が交付する「パートナーシップ宣誓証明書」。制度の対象は同性カップルだけでなく、事実婚、トランスジェンダーの方々も。

市民一人ひとりが自慢したくなる横須賀市を目指して

 持続可能な開発の国際目標であるSDGsは「地球上の誰一人として取り残さない」ということを誓っていますが、実は私はこの言葉が好きじゃないんです(笑)。ちょっと上から目線だと思いませんか。たとえ行政主導型だとしても、全員が同じ目線で助け合える社会をつくりたい。私の理想は「誰も一人にさせないまち」です。理想であるとともに、これは普通のことでもあると思っています。横須賀市で生まれ育った私は、もちろん横須賀を愛しています。横須賀の何をこんなにも愛しているんだろうと考えると、やはり人なんです。子どものころ、地域のたくさんの人に愛情を注いでもらい、人生のさまざまなことを教えてもらった。横須賀市に暮らす全ての人が、それぞれの地域で人とのつながりを実感できる。そんな市民の方が誇れる街にするために、市長として与えられた使命をまっとうしていきたいと思います。

(※)社会参加章:高齢者中心の団体のうち、積極的な社会参加活動を行う団体を広く全国に紹介することを目的として内閣府が表章を行うもの。

プロフィール

 1954年神奈川県横須賀市生まれ。1972年県立横須賀高等学校卒業。1977年早稲田大学商学部卒業、(株)ニチリョウ入社 。1978年衆議院議員田川誠一秘書、新自由クラブ神奈川県広報副委員長就任。2003年横須賀市議会議員初当選(当選4回)、2017年第37代横須賀市長就任。

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