インタビュー

2021/12/29

カミングアウトとアウティングについて話そう

諭吉さん 松岡宗嗣さん

 HEART DESIGN FOR ALLLGBT特集で過去に2回取材した松岡宗嗣さんが、この度『あいつゲイだって ~アウティングはなぜ問題なのか?~』という本を出版しました。この機会に、やはり過去のLGBT特集で取材したトランスジェンダーでタレントの諭吉さん(元シークレットガイズ)と松岡さんの対談が実現 ! 「アウティング」とはなにか、どうしたら防げるのか、異なるジェンダーやセクシュアリティの視点から、それぞれの経験談も交えた語らいをお届けします。

 

一番近くて一番難しい家族へのカミングアウト

松岡 早速ですけど、諭吉さんのカミングアウトはいつでしたか?

諭吉 僕、女子高だったんですけど、最初は仲の良い友達に「女の子が好きやねん」って。

松岡 自分も高校を卒業した春休みに友人に言いました。家族にはいつカミングアウトを?

諭吉 専門学校に入って家族に内緒で「オナベバー」でアルバイトを始めたんです。当時、トランスジェンダー男性は「オナベ」って呼ばれてて、店では自分を偽らなくていいから楽しくて!学校に行ってないのがバレて、縁を切られる覚悟で「こういう店で働いていて、自分もそういう人間です」って言ったら、父親が「お前はその道で行け!」って言ってくれて。松岡さんは家族にはどうやって?

松岡 大学で名古屋から東京に出てきたんですけど、あるとき母親が遊びに来て「彼女できた?」って質問のあと「彼氏はできた?」って聞いてきて、思い切ってカミングアウトしたらポジティブに受け入れてくれました。

諭吉 家族は一番近い存在だけに難しい。自分がカミングアウトすることで親が後ろ指を刺されるんじゃないかなとか。ゲイやレズビアンだってカミングアウトするのと、トランスジェンダーだって言うのとでは親の受け止め方も違うしね。

松岡 それぞれの関係性によっても違うし、母親と父親でも違ったり。私たちは幸い認められたけれど、そうじゃないケースはたくさんありますよね。

 

アウティング対策は、まず「本人に確認する」

松岡 諭吉さんはアウティングされた経験は?

諭吉 アウティングだったのかはわからないけれど、女子高時代に「あの子レズビアンやで」って白い目で見られて、当時はショックだった。松岡さんはアウティングされた経験は?

松岡 実は母が「うちの息子やっぱりゲイだった!」ってガンガン言っちゃうタイプで、まず父親にアウティングしちゃって、父は半年くらいショックで受け入れられず。母がとてもポジティブに伝えてくれたので親戚や幼なじみにも好意的に受け入れられ、助かった部分はありますが、やはり先に相談はしてほしかった。

諭吉 お父さんにも、なんやったら自分で言うしね。

松岡 父に拒絶されたら実家には帰れなくなっていたかもしれない。アウティングは命の危機につながることもあるのに、それほどの問題ではないという思い込みがある。

諭吉 大した問題じゃなくなってほしい、でもまだそこまで理解されていない。どうすれば一番いいんだろう。

松岡 アウティング対策って「本人に確認しましょう」これに尽きると思うんです。

諭吉 「○○にお前のこと言ってもいい?」ってね。

松岡 それが難しい場合は、共通の知人ではない人に相談したり、学校や職場の相談窓口、自治体や地域のNPOが電話相談を受け付けていることもあります。

諭吉 カミングアウトされた人も、一人では抱えきれないことがあるもんね。

松岡 私の母親も当時の反省を生かして、今は名古屋でNPOを立ち上げて、アウティングの危険性などについて出張授業で伝えているんですよ。

諭吉 お母さんすごいな!

 

アウティングという言葉も必要ない社会を目指して

松岡 諭吉さんが言った通り、アウティングしてもなんの問題もない社会になってほしい。それまでにはまだまだ、偏見や差別でしんどいときに生き抜くための情報が必要だということもこの本で伝えたかった。

諭吉 自分を守る方法を知るって大事よね。

松岡 当事者の人に一番伝えたいのは「しんどいのは自分のせいじゃない」ってこと。だから法律や制度を変えることが必要だと思い、団体を立ち上げて活動をしています。

諭吉 絶対に自分のせいじゃない。だから死という選択肢は絶対にあってはならない。

松岡 親世代の人たちが子どものカミングアウトを否定してしまう理由の一つに「大変な道を歩んでしまう」という不安や心配があると思うんです。

諭吉 あえてそんな道を選ばんでも、ってね。

松岡 幸せに生きてる性的マイノリティの人もたくさんいるということを見せていくことも大事。諭吉さんの活動もそうですよね。

諭吉 「こういう人間もおるで」ってことを広めていけたらと思う一方で、静かに暮らしたい当事者の方もいらっしゃると思う。僕はひとつの例で、トランスジェンダー男性がタレントを目指すという選択肢もあるって思ってもらえるように、お話をいただける限り芸能活動をしたいと思うし、この店もみんなで笑い合える楽しい場所にしていきたい。誰でもウエルカム!

松岡 また来ます!

 

命の危険につながる恐れもあるアウティングの問題点を指摘した著書

『あいつゲイだって~アウティングはなぜ問題なのか?~』

柏書房

 

 

撮影協力/諭吉BAR 

同店では新型コロナウイルス感染症拡大防止対策を徹底しており、撮影時のみマスクとアクリル板を外していただきました。

 

プロフィール

諭吉さん
Profile/1984年大阪府門真市生まれ。2010年トランスジェンダー男性(FtM=Female to Maleの略)タレントとしてデビュー。フォトエッセイ『ぼく、長女です。』を発売。<>br12年日本初FtMユニット・SECRET GUYSとしてデビュー、18年解散。タレント活動を続けるかたわら、2018年12月新宿に「諭吉BAR」をオープン。
https://twitter.com/YUKICHIBAR1203

松岡 宗嗣さん
Profile/1994年愛知県名古屋市生まれ、明治大学政治経済学部卒。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにし各種メディアに性的マイノリティに関する記事を執筆中。

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